日本消化器内視鏡学会甲信越支部

12.早期胃癌EMR後の副腎転移との鑑別が困難であったganglioneuromaの1例

立川綜合病院 消化器センター内科
山岸達矢、杉谷想一、池田正博、高橋弘道、高野明人、山本 圭、藤原真一、堀 高志朗、小林由夏、飯利孝雄
立川綜合病院 外科
清水孝王、蛭川浩史、多田哲也

 【症例】74歳 女性。平成11年8月、胃体上部後壁の早期がん0-IIa (adenocarcinoma tub1)に対 し内視鏡的粘膜切除術(EMR)を施行したが、切除断端が陽性であったため、同年9月に追加レーザー 照射を施行した。以後、年1回の内視鏡検査では、17年6月まで、再発はなかったが、18年6月の内 視鏡検査で、治療瘢痕部に粘膜下からの隆起所見を認め、局所再発と考えた。CT検査で、胃噴門部後 壁側の壁肥厚に加え、左副腎に乏血性の低吸収性腫瘤を認めた。胃がん局所再発+副腎転移 (stageIV)と診断し、同年7月18日から化学療法(TS-1 100 mg+シスプラチン80 mg/body)を 導入した。4クール施行後の内視鏡検査で、治療瘢痕部の近傍に腫瘍の一部露出と思われる潰瘍病変 を認め、生検で高分化腺がん組織を確認した。合計9クールまで施行したが、副腎腫瘍には治療効果 を認めなかった。19年6月から嘔気、嘔吐が出現し、内視鏡検査を施行したが、噴門部狭窄のため通 過が不可能であり、CT検査では副腎腫瘍の軽度増大を認めた。根治性は疑問であったが、主に通過障 害の改善を目的とし7月9日、胃全摘および脾・左副腎合併切除術を施行した。術中所見では、胃がん は奬膜面に一部露出していたが、後腹膜、副腎への直接浸潤はなく、それぞれ比較的容易に切除が可 能であった。切除後の病理では、T3N1M0 stage IIIAの胃がんおよび副腎原発のganglioneuroma であり、胃がんの副腎転移所見はなかった。術後経過は良好で、現在はTS-1単独内服にて加療中であ る。【考察】Ganglioneuromaは、成熟神経細胞および神経線維から発生する良性腫瘍で、発生頻度 は全後腹膜腫瘍中0.7〜1.8%と低く、悪性腫瘍に併発した報告例は、4例とさらにまれである。本例 は胃がんの局所再発病変に接して発見されたため、胃がん転移再発との鑑別が困難であり、根治術よ りも化学療法を先行させた形となった。最初の胃がんに対する診断と治療に問題があったことは言う までもないが、積極的な画像診断により、転移との鑑別を行うことが重要であることを示唆した一例 である。