日本消化器内視鏡学会甲信越支部

10.十二指腸に嵌頓しBall valve syndromeを呈した胃癌の2例

山梨大学医学部 第1外科
大森征人、河口賀彦、中山裕子、須貝英光、河野浩二、藤井秀樹

 胃の腫瘍性病変が十二指腸に脱出し、幽門を閉塞する病態は、Ball valve syndromeと定義される。 今回我々はBall valve syndromeを呈した胃癌を2例経験したので、若干の文献的考察を加え報告す る。
[症例1]83歳、男性。心窩部痛、嘔気が出現したため精査加療目的で当科入院となった。上部消化管 内視鏡および造影検査では胃体下部に基部を有する径4p大の有茎性の隆起性病変が十二指腸に嵌頓 していた。生検の結果、腺癌と診断されたため、幽門側胃切除術を施行した。病理組織学的所見では 中分化型管状腺癌であり、深達度sm、リンパ節転移は認められなかった。術後経過良好で、外来通 院中である。
[症例2]75歳、女性。検診で胃前庭部に有茎性の隆起性病変を指摘され、生検の結果、腺癌の診断さ れたため、当院へ紹介入院となった。当院での上部消化管内視鏡検査時に、径4p大の有茎性の隆起 性病変が十二指腸に嵌頓していた。幽門側胃切除術を施行し、病理組織学的所見では乳頭腺癌であり、 深達度sm、リンパ節転移は認められなかった。術後経過良好で、現在再発徴候を認めていない。  Ball valve syndromeの嵌頓症状としては、突然の心窩部痛、嘔気、嘔吐を反復することが特徴とさ れる。しかし、有茎性であることが多いため、胃癌の場合、その深達度としては比較的浅いものが多 い。今回の症例では、治療の選択肢として内視鏡的切除も考えられたが、切除標本の回収が困難であ ること、超音波内視鏡検査による深達度診断が十分でなかったことなどから幽門側胃切除術を施行した。