日本消化器内視鏡学会甲信越支部

9.胃全摘を施行した95歳胃癌症例

新潟県立がんセンター 新潟病院 外科
滝沢一泰、梨本 篤、薮崎 裕、中川 悟、野村達也、瀧井康公、土屋嘉昭、田中乙雄

 症例は95歳,男性である.平成15年10月より食欲不振で発症したが,発熱も伴ったため,近医受診した. 上部内視鏡検査の結果,噴門直下から胃角部までの広範な2型胃癌(por)と診断され,平成16年6 月に当科を紹介受診した. T3,Nx,H0,P0,CYx, M0と診断し切除可能と判定した.食道外から圧迫し, つかえ感および背部痛を訴えたが,帯状疱疹を発症したため治療後,手術に踏み切った.【手術所見】原 発巣は胃体上部から下部後壁の大きな2型胃癌で,膵体尾部に直接浸潤しており(T4,SI),sN2である.家 族と相談の結果,胃全摘+膵尾部切除+脾摘+リンパ節郭清の方針とする.過大侵襲になったが,状態は安 定しており抜管後帰室した.手術時間は3時間9分,術中出血量は490mlであった.しかし,帰室後呼吸 状態が悪化し再挿管後,第2病日に気管切開を施行した.第8病日,ドレーンより出血があり,ショックに 陥った.IRRにて脾動脈断端の仮性動脈瘤からの出血と診断し,コイル充填にて止血した.以後は徐々に 回復し,第34病日に紹介病院へ転院した.病理組織はpSI,pN2(12/29),H0,P0,CY0, StageIVで根治術 であった.しかし,平成17年1月に肺転移をきたし,2月に死亡した(術後5ヶ月).【まとめ】今まで当科 では経験のない超高齢者に対し,手術適応に関しては大いに悩んだが,本人,家族の希望があったため苦 渋の選択であった.結果的には過大侵襲となり,術後もトラブルが続いた.今後同様な症例に対しては過 大侵襲となる手術は避けるべきである.