日本消化器内視鏡学会甲信越支部

6.NBI拡大観察により側方範囲診断しえた広範な表層拡大型早期胃癌の1例

新潟大学医歯学総合病院 光学医療診療部
竹内 学、成澤林太郎
新潟大学医歯学総合病院 第3内
小林正明、湯田知江、五十川正人、津端俊介、佐藤明人、田村 康、大越章吾、青柳 豊
新潟大学医学部 分子・診断 病理学分野
坪井清孝、味岡洋一
新潟大学医学部保健学科 臨床生体情報学講座
岩渕三哉

 近年、NBI(narrow band imaging)拡大観察による胃癌の質的および側方進展範囲診断が普及し、 ESD術前診断に応用されている。今回、われわれは広範な表層拡大型早期胃癌に対し、NBIにより側 方範囲診断を行い、ESDにて一括完全切除し得た症例を報告する。症例は70歳代男性。検診異常にて 近医でEGD施行され、体中部後壁の小びらんからの生検で中分化型腺癌を認めたため、当科紹介と なった。通常観察では癌部の境界を認識することは困難であったが、NBIを用い、体中部後壁の明ら かな癌部から肛門側へと境界部を探していくと前庭部小弯後壁に癌部は口径不同でnet work状の血管 を有する小型で密な腺管パターン、非腫瘍部は異常血管を有さない規則的な腺管パターンを呈する境 界明瞭な所見を捉えることが可能であった。この境界部からNBIにて範囲を追っていくと、前庭部か ら体上部の前壁、小弯、後壁にまたがる非常に広範な表層拡大型早期胃癌であると診断可能であった。 また病変内には明らかなsm浸潤を示唆する所見は認めず、CTでもリンパ節転移は認めなかった。本 人に胃全摘出術の治療方針を説明したところ、内視鏡治療の強い希望があり、術時間、術後の合併症 (後出血、穿孔、狭窄)を説明し同意が得られたため平成19年5月全身麻酔下でのESDを施行した。 約10時間にて一括切除し、術中の偶発症は認めなかった。切除径は205×110mm。病理診断は Adenocarcinoma(tub1,tub2) m ly0 v0 0IIb+IIc HM(-) VM(-) 腫瘍径185×100mm の一括完全切除であった。ただ切除時間が長く、虚血による上皮脱落部位が存在し一部評価困難で あった。術後は前庭部領域で狭窄を来したため、頻回なバルーンブジーを要し、現在週1回のペース で行い、経口摂取可能である。早期胃癌範囲診断に対するNBI拡大内視鏡では詳細な微細血管構造の 観察、さらに微細表面構造の観察が可能となった。本症例のように通常観察での範囲診断に難渋する 表層拡大型早期胃癌にはNBIは特に有用なmodalityと考えられた。