日本消化器内視鏡学会甲信越支部

5.経過観察中に陥凹型から隆起型へ変化した早期胃癌の1例

佐久総合病院 胃腸科
松村孝之、小山恒男、宮田佳典、友利彰寿、堀田欣一、古立真一、高橋亜紀子、北村陽子、吉田晃、岡本耕一、田沼徳真、米田頼晃、大瀬良省三

<はじめに>胃癌はどのように発生し、どのように発育していくのか?今回、経過観察中に陥凹型か ら隆起型へ変化し、3年半で計7回の内視鏡検査にて経過を追えた早期胃癌の1症例を経験したので報 告する。 <症例>80歳代男性。既往歴:40歳代より高血圧、70歳代に喉頭癌の手術既往がある。現病歴:82 歳時に脳幹梗塞にて当院に入院し、胃瘻造設の際に胃前庭部大弯に陥凹性病変が発見された。病変は、 辺縁隆起を伴い全体に厚みがあるIIc型で 粘膜下早期胃癌と診断した。病変中央部からの生検病理結 果では、高分化型腺癌であった。同日胃体下部前壁に胃瘻造設が行われた。胃癌の治療方針は、患者 が高齢であり意識障害もあることから、やむなく経過観察となった。以後半年間隔で胃瘻交換時に上 部消化管内視鏡検査を行った。半年後の内視鏡検査では、病変全体の厚みが増していた。1年後には、 病変全体が隆起型に変化し0-I型粘膜下浸潤癌と診断された。陥凹型から隆起型へと明らかに病変の肉 眼的形態が異なってきたため、組織学的変化も考慮し再度生検を行った。その生検病理結果は、初回 検査時と同様で高分化型腺癌であった。半年毎に腫瘍の隆起成分は増大していった。約2年半後の内 視鏡検査では、同病変は十二指腸へ嵌頓していた。胃内に残留物は認めずスコープは通過した。その 約半年後(初回検査時より約3年半後)に心不全にて死亡した。
<考察>今回我々が経験した症例は、早期胃癌にて発見され約3年半にわたり計7回の上部内視鏡検査を行っ た。その間に陥凹型から隆起型へ形態が変化した1例を経験したので報告する。