症例は64歳女性、2006年4月易疲労感を主訴に某院受診、その後嗄声が出現した。胸部CT検査で、 気管分岐部背側に食道と連続する2.7×1.8cm、右肺門部に1.6cm、甲状腺右葉背側に3.7×3cmの 腫瘤を認めた。上部消化管内視鏡検査では、切歯より25cmの部位にSMT様隆起、30cmの部位に周 囲が隆起し中央に白苔を有する潰瘍性病変が有り、同部の生検で中分化型扁平上皮癌を認めた。食道 癌、リンパ節転移の診断にて同年5月当科紹介。CDDP+5FUによる放射線化学療法を行なった。そ の後外来で経過観察をしていたが2007年2月より摂食時の咳嗽・喀痰が出現し、精査加療目的に当科 再入院となった。食道造影検査、CT検査、気管支鏡検査にて気管分岐部直上に気管食道瘻を認めたた め、食道ステントを留置し退院となった。5月に発熱、背部痛、咳嗽、喘鳴、呼吸困難が出現したた め第3回入院となった。気管支鏡検査では、瘻孔開口部は全長約4.5cmで気管から左主気管支に連続 し、右の主気管支入口部には気管支壁が不整形に隆起していた。上部消化管内視鏡検査では瘻孔部分 はステントに覆われていた。その後見当識障害が出現し、頭部CT検査で頭蓋内にairの混入が認めら れ気脳症と診断した。脳槽シンチグラフィーでは髄液の漏出が確認されたが、漏出部位の特定はでき なかった。吐物中にRIが検出され、食道病変部またはそれより上部での髄腔との交通が考えられた。 髄液瘻の治療には自己血髄注を実施したが、見当識障害は改善しなかった。その後突然の吐血にて同 年6月死亡した。剖検所見では、髄液中に扁平上皮癌細胞を認め、食道内腔から第2胸椎を介し髄腔ま でゾンデが通る交通が認められた。同胸椎には骨・骨髄炎があったが癌は認められず、癌が治療によ り消失し瘻孔が形成されて気脳症を呈したと考えられた。以上、食道癌の直接浸潤により髄液瘻・気 脳症を呈した食道癌症例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。