日本消化器内視鏡学会甲信越支部

2.孤立性静脈瘤上の食道表在癌に対してESDを施行した1例

佐久総合病院 胃腸科
田沼徳真、小山恒男、宮田佳典、友利彰寿、堀田欣一、高橋亜紀子、北村陽子、古立真一、吉田晃、岡本耕一、松村孝之、米田頼晃、大瀬良省三

 症例は77歳の男性。孤立性静脈瘤上に食道表在癌を認め紹介となった。胸部中部食道に孤立性静脈 瘤を認め、その上に半周性の発赤陥凹病変を認めた。ヨード染色で同部は不染を呈した。NBI拡大観 察ではIPCLの拡張・延長を認めたが、横走血管は認めなかった。以上より、食道扁平上皮癌0-IIc深 達度m1-2相当と診断した。超音波内視鏡検査では、第3層に1〜5mmの血管数本で構成される静脈 瘤と、筋層を貫く穿通枝が確認された。いずれも止血鉗子で把持できる太さで血管処理可能と判断し、 同病変に対してESDを行った。まず腫瘍と静脈瘤の外側にマーキングを置き、エピネフリン添加グリ セオール液を局注し周囲粘膜の切開を行った。口側より粘膜下層を剥離していくと、径5mm大の静 脈瘤と流入血管を視認できた。流入血管を露出させ止血鉗子(FD-410LR) soft凝固60W effect3にて precoagulation後に切離し、静脈瘤と筋層の間を剥離していった。途中、糸付きクリップを用いて カウンタートラクションをかけ、良好な剥離ラインを確保する事ができた。以上の操作で合併症なく 病変を一括切除することができた。明らかな筋層露出や穿孔所見はなかったが、術直後の胸部レント ゲン写真で縦隔気腫を認めた。翌日の内視鏡検査ではESD後潰瘍に大きな凝血塊が付着しており、絶 食を継続とした。ESD4日後に再度内視鏡を施行したが潰瘍底に出血は認めず、また、レントゲン写 真でも縦隔気腫の改善が認められた。ESD5日後より経口摂取を開始し、8日後に退院となった。病理 組織学的診断ではsquamous cell carcinoma, m2 ly0, v0, VM(-), LM(-), pType 0-llc, 44x23mm, Mt, Postと診断された。通常の静脈瘤上の食道表在癌では、病変より肛門側の静脈瘤に穿刺し、EIS を施行することで病変下の静脈瘤を消退させる事が可能だが、本例のように孤立性静脈瘤上に食道表 在癌が発生した場合は、病変内の静脈瘤に対して直接穿刺する必要があり、その後の内視鏡的切除が 困難となる可能性が高い。従って、本例では孤立性静脈瘤に対する前治療を施行せず、一期的なESD にて治療を行った。また、縦隔気腫の原因は、血管流入部からの漏出と推察された。