日本消化器内視鏡学会甲信越支部

37.直腸癌術後縫合不全による難治性瘻孔に経内視鏡的ヒストアクリル注入が奏効した1例

山梨大学 第1外科
森 義之, 飯野 弥, 三井文彦, 日向 理, 藤井秀樹

 直腸癌術後縫合不全により生じた糞瘻は再発を繰り返し難治性となることがある。今回、経内視鏡的ヒストアクリル注入が奏効した1例を経験したので報告する。

症例は59歳の男性。直腸癌(Ra-Rb, Stage IIIa)に対し、術前化学放射線治療施行後、2003年4月に低位前方切除術を施行した。術後、吻合部縫合不全を生じ、人工肛門造設術施行した。吻合部後面に挿入していたドレーンを抜去した部位が糞瘻となるも、その後自然閉鎖したため、縫合不全が治癒したことを確認し2004年5月人工肛門閉鎖術施行した。しかし、2005年4月左下腹部のドレーン刺入部瘢痕の発赤と排膿、排ガス、排便を認め、瘻孔造影、腹部CT検査にて縫合不全に起因する直腸皮膚瘻と診断した。瘻孔の皮膚側よりカテーテルを挿入し、瘻孔中央部より皮膚側へフィブリン糊製剤(ベリプラストP)を注入したが、すぐに再燃した。瘻孔の腸管側入口部を閉鎖しなければ治癒しないと考え、同年6月下部内視鏡下に直腸吻合部の瘻孔開口部からヒストアクリルを注入した。しかし、翌日排便とともにヒストアクリルは排出され、症状は再燃した。瘻孔に注入したヒストアクリルの先端が腸管内に突出していたため糞便とともに排出されたと考えた。同年8月再度下部内視鏡施行し、ERCP用造影カテーテルを瘻孔へ約5p挿入し、同部よりヒストアクリルを注入、腸管内へはみださない部位で注入を終了した。その後4日間絶食とし術後5日目より食事開始した。排便してもヒストアクリルの排出のないことを確認し、術後7日目に退院した。ヒストアクリル注入後1年8カ月、瘻孔の再開通を認めていない。