日本消化器内視鏡学会甲信越支部

36.深達度sm3であったIs型大腸分化型粘液癌の1例

佐久総合病院 胃腸科
岡本耕一, 堀田欣一, 小山恒男, 宮田佳典, 友利彰寿, 高橋亜紀子, 北村陽子, 古立真一, 松村孝之, 吉田晃, 田沼徳真, 米田頼晃, 大瀬良省三

今回我々は、深達度sm3の大腸分化型粘液癌の1例を経験したので報告する。

【症例】60歳代、女性。

既往歴:乳癌、子宮癌。

家族歴:父、食道癌。

現病歴:近医でスクリーニング目的に行われた大腸内視鏡検査にて、下行結腸に病変を指摘され当科紹介となった。

内視鏡所見:下行結腸に周囲に白斑を伴う、15mm大の発赤調の無茎性隆起性病変を認めた。隆起は不整形で緊満感を有していた。ピオクタニン染色後の拡大観察にて、隆起の頂部には染色不良領域が散在し、染色領域にはVI高度不整pit patternを認めたため深達度sm2以深と診断した。また隆起の辺縁にIIILpit patternを認めた。生検にてgroup5(tub2)、CTでは転移を認めず、SM,N0,H0,P0,M0,cStageIと診断し腹腔鏡補助下左結腸切除術が施行された。切除標本の実体顕微鏡拡大観察にて隆起部全域にVI高度不整pit patterを認め明らかなVNpitは認めなかった。病理診断はadenocarcinoma,Is,15×12mm,tub2>muc>tub1>por,pSM3(5400μm),int,INFc,ly2,v0,pN0(0/4) ,pPM0,pDM0,pRM0,StageI,CurAであった。

考察:本例は、腫瘍表層は分化型癌から構成され、sm浸潤部で粘液癌に変化していた。しかし粘液結節内の癌は、分化型癌から成り、いわゆる分化型粘液癌の組織像であった。拡大観察にてsm深部浸潤は診断可能であったが、粘液癌については診断困難であった。ただ、後の検討から隆起の部分が比較的柔らかく腫瘍辺縁で一部SMT様の隆起を認めたことが粘液癌を示唆する所見であったと考えられた。大腸粘液癌でsmにとどまる症例は稀であり、粘液癌の初期像として示唆に富む症例と考えられた。