症例は50歳代男性。2006年7月、検診異常精査のため近医にて施行された上部消化管内視鏡検査(EGD)で、腹部食道に隆起性病変が認められ、同部生検で腺癌と診断されたため、精査加療目的に当科紹介受診した。当科にて施行されたEGDではSCJ右壁に長径15mm大の発赤調隆起性病変が認められた。表面は口側から病変中央まで扁平上皮で覆われ、扁平上皮下進展が疑われた。NBI拡大観察では病変に一致して不整異常血管を認め境界明瞭であった。また、背景粘膜にBarrett上皮の所見は認めなかった。胸腹部CTで明らかなリンパ節転移は認めなかった。以上より0-Ua噴門部癌で深達度は粘膜内と考え内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を施行し一括切除した。切除検体は51×32mm、病変は15×13mm、最終診断はadenocarcinoma,tub1,tub2,sm1,ly0,v0,LM(-),VM(-)であった。本例は非腫瘍性の正常な重層扁平上皮に被覆された腺癌の直下に食道固有腺を認めたこと、腺癌の近傍に噴門腺が認められること、Barrett上皮を認めないことから胃噴門部癌ではなく食道噴門腺由来の食道腺癌の可能性が高いと考えられた。食道腺癌の多くはBarrett上皮を発生母地とするが、食道噴門腺由来と考えられる食道腺癌は比較的稀であり少ないため、若干の考察を含め報告する。