日本消化器内視鏡学会甲信越支部

34.無症状で発見された腸管スピロヘータ症の2例

長野中央病院消化器内科
太島丈洋,小島英吾
長野中央病院消化器内科
束原 進

腸管スピロヘータ症は本邦では1996年に初めて報告された非常に稀な疾患であるが,今回無症状で発見した2例経験したので報告する.【症例1】65歳男性.糖尿病にて当院通院中の患者.特に自覚症状は無く,便潜血陽性にて下部消化管内視鏡検査実施した所,上行結腸の一部に塑造な粘膜面を持つ,長径10mm程の楕円形の扁平隆起性病変を認めたため同部位より生検を実施した.表面上皮の微絨毛に好塩基性の刷毛状の構造物を認め,腸管スピロヘータ症と診断した.後日,軽度発赤した部位や血管透見像の消失した部位からの生検でもスピロヘータの付着を認めた.【症例2】59歳男性.小腸イレウス加療後の精査目的で下部消化管内視鏡検査を実施した.回盲弁の対側に横走する20mmほどの潰瘍があり,上行結腸粘膜には肥厚した塑造な粘膜を認めたため生検を実施した所,表面上皮の表面に好塩基性の毛羽立ち様所見を認め,腸管スピロヘータ症と診断した.後日再検査を行ったところ,無治療にもかかわらず盲腸の潰瘍は治癒していた.潰瘍治癒部位と横行結腸の血管透見像消失部位からの生検で再度スピロヘータの付着を認めた.【考察】医科細菌学で取り上げられるスピロヘータは2科9属あり,Spirochaetaceae科Treponema属の梅毒トリポネーマ,同科Borrelia属(ライム病・回帰熱),Leptospiraceae科Leptospira属(Weil病)などが有名である.人の腸管から分離されるスピロヘータはBrachyspira属であるが,豚赤痢の原因菌として1971年に始めて確認されている.その後1982年に人の腸管からも分離され,1996年以降本邦では症例報告が13件なされているが、論文になっているものは3件のみである.今までの報告では,血便・下痢・腹痛・便秘などの症状が見られることもあるが,全く無症状の患者も存在する.また内視鏡所見については報告例は少なく,多くはほぼ正常粘膜であったと報告されているが,紅斑・発赤・浮腫・血管透見像の消失・潰瘍などを認めた報告もある.今回経験した2例は無症状ではあったが,内視鏡的には発赤や血管透見像の消失・潰瘍を形成しており,無症状ながら腸管粘膜への病原性を持っている可能性が考えられた.