日本消化器内視鏡学会甲信越支部

32.輪状潰瘍を呈した大腸癌による閉塞性腸炎の一例

諏訪赤十字病院 消化器科
小口泰尚, 進士明宏, 武川建二, 望月太郎, 沖山洋, 太田裕志, 山村伸吉, 小口寿夫
外科
河埜道夫, 岡田敏宏, 西山和孝, 島田宏, 矢澤和虎, 梶川昌二
病理部
中村智次

患者は59歳、男性。主訴は右下腹部痛、発熱。既往歴に16歳時、虫垂炎にて切除術を受けていた。現病歴は、2007年1月28日午前2時より右下腹部痛が出現。A病院を受診し白血球13060/μlと炎症反応を認め、腹部レントゲン写真にて便塊があり、便秘による症状と診断を受け下剤とNSAIDsの座剤を処方され帰宅した。しかし同日午後5時には腹痛が増悪し、37℃後半の発熱もみられ、当科受診。腹部CT検査にて横行結腸に腫瘤と上行結腸の拡張を認め、入院となった。絶食・補液・抗生剤投与にて腹痛は改善した。第3病日、浣腸のみの前処置にて下部消化管内視鏡検査を施行。横行結腸に全周性の腫瘍を認め、管腔の狭小化はみられたが、細径(PCF-Q260AI、オリンパス社製)のスコープは同部を通過可能であった。腫瘍口側の上行結腸から盲腸にかけて、多発する輪状潰瘍を認めた。回盲弁上にも類円形の潰瘍を、終末回腸には小びらんを認めた。第5病日に施行した注腸造影では、浅い潰瘍性病変を認めるものの上行結腸の短縮、回盲部の変形などは認められず、終末回腸にも異常を認めなかった。胸部CT検査でも異常はなく、喀痰、胃液、便、結腸生検培養にても結核菌は検出されず、組織生検でも肉芽腫などは認められなかった。なお、腫瘤部は腺癌を認めた。培養・生検にて検出されない腸結核の報告例もあることから、結核合併の大腸癌も鑑別と考え、感染対策を施した上で第13病日右半結腸切除術を施行した。潰瘍部のPCR、潰瘍部の病理像を詳細に検討したが結核感染の証拠はやはり認められず、虚血性変化を認めた。主病変である癌は7×4cm, type2, muc>tub2>pap, pSS, INFα, ly0, v0でリンパ節転移を認めずStage Uであった。以上より大腸癌による狭窄に伴う虚血により起こった閉塞性腸炎による潰瘍と判断した。閉塞性腸炎は縦走潰瘍をとることが多く、本例のように輪状潰瘍を呈したものは比較的稀と考え、文献的考察を含めて報告する。