日本消化器内視鏡学会甲信越支部

29.腹痛下痢を契機に発見され、H.pylori除菌療法にて改善した回腸MALTリンパ腫の1例

山梨県立中央病院消化器内科
辰己明久, 鈴木洋司, 小嶋裕一郎, 小林美有貴, 芦澤亜紀子, 細田健司, 三澤綾子, 廣瀬雄一, 望月仁, 高相和彦
同病理所属
小山敏雄

MALTリンパ腫はリンパ節外の粘膜関連リンパ装置を母体として発生する低悪性度のB型細胞悪性リンパ腫であるが、腫瘍性病変と同時に炎症による反応性増殖の要素もある。

今回我々はベーチェット病の経過観察中、腹痛下痢を契機に診断した回腸MALTリンパ腫の1症例を経験したので報告する。症例は42歳男性。2003年に口腔粘膜アフタ、毛嚢炎様皮疹、虹彩毛様体炎、陰部潰瘍にてベーチェット病と診断され、コルヒチン、プレドニンを中心に近医で経過観察されていたが、2006年11月腹痛下痢出現し、11月30日当科紹介となった。身体所見では臍下部に軽度の圧通を認めた。検査所見では白血球9900/μlと白血球増多を認める以外異常所見はなかった。CT検査及びGaシンチグラフィーでも異常は認めなかった。大腸鏡検査では、終末回腸には糜爛が散在し、丈の低い周堤様の隆起と内部に凹凸の目立つ縦長の潰瘍面が認められ、周囲粘膜は浮腫状でベーチェット病よりはリンパ腫を疑わせる所見であった。同部の生検所見では密度の高いmassiveな小型リンパ球細胞の集族が見られ回腸MALTリンパ腫と診断した。上部消化管内視鏡検査では特に異常所見はみられなかったが、生検組織培養でH.pyloriを認めたため除菌療法を行った。除菌療法後2週間で腹痛下痢は改善したため、除菌療法後6週めに再度大腸鏡検査を施行。終末回腸に瘢痕と発赤糜爛を認めたが、潰瘍所見は著明に改善し、周囲の隆起も改善していた。小腸造影検査でも異常を認めず、H.pylori除菌療法が有効であった。示唆に富む症例であり、文献的考察を加えて報告する。