日本消化器内視鏡学会甲信越支部

15.上部消化管内視鏡を契機に診断された第2期梅毒(胃梅毒)の1例

佐久総合病院 胃腸科
蔵島牧子, 堀田欣一, 小山恒男, 宮田佳典, 友利彰寿, 高橋亜紀子, 北村陽子, 古立真一

【症例】40代、男性。食後の心窩部痛を主訴に近医を受診し、紹介となった。上部消化管内視鏡検査にて、前庭部から胃体部に不整形の地図状のびらんを全周性に認め、前庭部の拡張は不良であった。梅毒、結核などの特殊な炎症を疑って生検を行い、ラベプラゾール10mg/dayの投与を開始した。粘膜層以深の情報を得るためEUSを施行したが、粘膜および粘膜下層の肥厚を認めるのみで層構造は保持されていた。X線透視では、胃体部から前庭部にかけて顆粒状の粘膜変化と軽度の拡張不良を認めた。血液検査上Hb12.6g/dl、WBC5900/μl、CRP0.24mg/dl、血沈(1h)18mm、血沈(2h)58mmと軽度貧血及び炎症反応の上昇を認めるのみであった。生検診断はgroupUで粘膜固有層に形質細胞を主体とした炎症細胞浸潤を認めた。

内視鏡検査にて梅毒が疑われたため再度問診したところ、初診より5ヶ月前に性感染症のリスクがあり、4ヶ月前に体幹、四肢皮疹が出現し、その2ヵ月後に自然消退したことが判明した。口蓋扁桃に発赤、陰茎に軟性下疳治癒所見を認め、血液検査にて血清梅毒RPR128倍、TPHA5120倍であった。生検組織の酵素抗体法(LSAB法)にてらせん型の菌体を多数認めたため胃梅毒と確定診断した。胃梅毒の発症と軟性下疳やバラ疹の経過より第2期梅毒と考えられ、AMPC1.5g/day×14日の内服を行った。1ヶ月後の内視鏡にて胃のびらんは著明に改善し、血液検査ではHb14.3g/dl、血沈(1h)3mm、血沈(2h)10mmと改善を認めた。

【考察】HE染色のみでの梅毒の生検診断は難しいため、若年者の胃に広範な地図状びらん性病変を認めた場合、梅毒の可能性も念頭においた問診や血液検査及び梅毒特殊染色を行う必要がある。