日本消化器内視鏡学会甲信越支部

10.心筋虚血症状を合併し、保存的に治癒した胃潰瘍穿孔の1例

長野県立木曽病院 内科
高橋 俊晴, 若林 靖史 ,伊藤 篤,堀込 実岐,布施谷 仁志,小松 健一,飯嶌 章博
長野県立木曽病院 外科
小山 佳紀,大町 俊哉,久米田 茂喜

【症例】 60歳 男性

【既往歴】糖尿病、高脂血症、高血圧にて内科通院加療中。

【現病歴】平成19年2月23日夕食中に突然の胸痛、呼吸困難出現し救急車にて来院。来院時冷汗著明、前胸部圧迫感も強かった。心電図上、虚血性変化は明らかでなく、心筋逸脱酵素の上昇もなかったが、症状から狭心症を疑い診断的治療としてニトロペン舌下投与したところ胸痛改善傾向となった。26日にCAG施行し、回旋枝に75%有意狭窄を認め、狭心症と診断した。同狭窄部に対し、バルーン拡張とステント留置し狭窄は改善した。一方、CAG実施日の夕方よりタール便が出現。ヘパリンも高容量で使われ、かつステントに対する抗血小板薬も作用した結果、潜在的に消化管出血を助長しやすい状態であった。また本例は肩関節痛に対し、長期NSAIDS服用者でもあり、胃潰瘍からの出血を疑い2月28日に上部消化管内視鏡検査を施行した。胃角部に巨大かつUl-Wの深い潰瘍を認めたが、活動性出血・露出血管は認めなかった。直ちにPPI及び止血剤投与を開始した。その後はタール便なく、貧血の増悪も見ていない。3月6日に腹満感を訴えたため施行した腹部CTにてfree airを認めたため胃潰瘍穿孔と診断し外科転科となった。腹膜刺激症状を認めず、バイタルサインも安定していたため保存的に加療する方針となった。3月23日に施行した腹部CTにてfree airの減少を認め、上部消化管内視鏡検査にても潰瘍の改善傾向を認めた。現在症状の再発はなく、外来通院加療中である。

【考察】心筋虚血を合併し、腹膜炎を併発しなかったため保存的加療にて治癒した胃潰瘍穿孔の1例を経験したので、若干の文献的考察を加えて報告する。