日本消化器内視鏡学会甲信越支部

9.被膜下出血により嚢胞形成した胃GISTの1例

山梨大学 医学部 第1内科
末木良太, 大高雅彦, 花輪充彦, 三浦美香, 高野伸一, 山口達也, 植竹智義, 大塚博之, 佐藤 公, 榎本信幸
山梨大学 医学部 第1外科
上村和康, 須貝英光, 河野浩ニ, 藤井秀樹
山梨大学 医学部 人体病理学
中村暢樹

 症例は73歳、男性。主訴:心窩部痛。既往歴:高血圧・高脂血症。現病歴:2006年1月19日に心窩部痛を訴え近医を受診し、1月30日に上部消化管内視鏡検査を受けた。胃体下部小弯にφ50mmの隆起性病変を認め精査加療目的に当院紹介され5月25日に入院となった。入院時現症に特記すべきものなし。入院時検査所見に異常を認めなかった。腫瘍マーカー(CEA, CA19-9, CA125)は正常範囲内であった。腹部超音波検査では胃に約5×4cm大の嚢胞成分と充実性成分の混在する境界明瞭な腫瘤がみられ、充実性部分には血流信号を認め た。上部消化管内視鏡検査では、胃体下部前壁小彎よりに約5cmの表面健常粘膜に被われたフタコブ上の隆起性病変を認めた。粘膜下腫瘍と考え超音波プローブを行ったところ、第3層を主座にした嚢胞性腫瘤を認め、隔壁を有し内部に分葉状の実質エコーを認めた。腹部CTでは胃体下部に45×30mm大の境界明瞭な腫瘤を認め、内部は漸増する造影効果を認めた。遅延相でpooling を示した。MRIでは腫瘤は辺縁部がT2強調像で強い高信号で中心部は中等度の信号であった。造影では辺縁部は造影されず、中心部がよく造影された。胃に嚢胞成分と充実性成分を有す疾患として迷入膵、duplication cyst、GISTなどが考えられた。腫瘍径が大きく、MRIからGISTが疑われたため、6月15日に開腹下胃局所切除術を行った。肉眼的には境界明瞭で被膜に囲まれた腫瘤性病変(20x25x25mm大)で、内容物は血性であった。組織学的には粘膜下層から筋層深部にかけて、円形から長楕円形核を有する細胞がhistoid patternで増生していた。血管が増生し出血をともなっていた。免疫染色は、 c-kit (+), CD34 (-), SMA (+), S-100 (-)で、GISTと診断し、核分裂像は少なく低悪性度と判断した。

 GISTによる嚢胞変性は腫瘤内部に出現し無エコー域を呈すことが多い。本例は被膜下への出血による嚢胞形成により、嚢胞内に充実成分を有した粘膜下腫瘍として認識された比較的稀な形態であり文献的考察を加え報告する。