日本消化器内視鏡学会甲信越支部

8.早期胃癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)後3年8ヶ月目に進行胃癌で再発した一例

信州大学消化器内科
張 淑美, 児玉 亮, 須藤貴森, 長屋匡信 ,松田賢介, 金子靖典, 北原桂, 須澤兼一, 白川晴章, 新倉則和
丸の内病院消化器内科
中村 直
内視鏡診療部
赤松泰次

 症例は60歳代の男性。平成15年3月の人間ドッグで施行した上部消化管内視鏡検査(EGD)にて胃体中部から下部の前壁に大きさ約4cmのUa+Ub病変を認めた。生検ではGroup X(tub1〜tub2)で潰瘍所見がないためESDの適応拡大病変と考え、インフォームド・コンセントを得て同年7月にESDを施行した。病変は一括切除され、術中に微小穿孔が生じたがクリッピングを行って保存的に治癒した。切除標本は65mm×55mmで病変部は40mm×38mmのUaとして肉眼的に認識された。病理組織学的にはその範囲に一致してtub1からpor、sigまで多彩な組織型が認められた。切除断端は水平、垂直とも陰性であった。病変のほとんどは粘膜内に存在したが中心部では粘膜下浸潤(500μm)を認め、リンパ管侵襲(ly1)がみられた(根治度EB)。粘膜下浸潤、リンパ管侵襲が認められたことから追加手術を勧めたが本人が手術を希望せず経過観察となった。以後定期的にEGD、腹部CT検査を行い再発を認めなかったが、平成19年3月に行ったEGDでESD後の瘢痕に一致して5型進行癌を認め生検でGroupX(sig〜por)と診断された。近日中に幽門側亜全摘手術を行う予定である。本症例の再発形式を考えると、切除断端陰性であることから癌組織が粘膜下層のリンパ管内に残存し、そこから再発したものと推定された。