日本消化器内視鏡学会甲信越支部

6.ESD施行後にリンパ節転移をきたし手術を施行したsm胃癌の1例

新潟県立がんセンター 外科
猪瀬悟史,梨本 篤,藪崎 裕,中川 悟

 症例は60歳、男性。2004年12月、ドックの上部消化管造影検査で胃体上部に異常陰影を認め、2005年2月、精査目的に当院内科を受診した。上部消化管内視鏡検査で胃体上部後壁に陥凹を伴う低い隆起性病変を認め、cType0-Ua+Uc, T1(SM)と診断した。生検ではgroupV(tub2)であった。手術目的に当科紹介となったが、本人が内視鏡治療を強く希望され他院紹介となった。c Type0-Ua+Uc, T1(M)の診断にて同年6月、ESDを施行された。一括切除となったが、剥離困難で術中出血が多く、途中穿孔をきたしクリップで結紮閉鎖した。病理組織学的にtub2, pType0-Uc, 52×44mm in 72×66mm, T1(sm2), ly2, v1, LM(−), VM(+)の診断であった。当科に再度紹介され外科的切除が必要であることを説明したが、手術を希望せず当科経過観察となった。定期的に血液検査、上部消化管内視鏡検査、腹部CT検査等を施行していたが、遺残や転移を疑う所見は認めなかった。しかし、2006年11月にCA19-9が131.6U/ml(正常値:37U/ml以下)と上昇あり、2007年1月の腹部CT検査で胃小弯に2cm大の腫大リンパ節を1個認め、胃全摘術+No10を除くD2郭清を施行した。病理組織学的にESD後の部位に癌の遺残を認め、tub1, pType0-Uc, 22×18mm, T1(m), ly0, v0, PM(−), DM(−)の診断であった。リンパ節転移は術前CTで指摘された右噴門リンパ節の1個のみ陽性であった。術後経過は良好で、第11病日に退院した。胃癌に対する内視鏡的壁深達度診断は慎重に行い、ESDの適応外と判断される場合には手術の必要性を十分に説明し理解していただくことが重要である。