日本消化器内視鏡学会甲信越支部

5.広範な中分化型扁平上皮癌に腺様分化を伴った類基底細胞癌を認めた食道表在癌の一例

信州大学医学部消化器外科
鈴木 彰,小出直彦,斉藤拓康,北沢将人,竹内大輔,宮川眞一
波田総合病院 外科
桐井 靖
信州大学医学部中央検査部
浅野功治,太田浩良

広範な伸展を示した中分化型扁平上皮癌の一部に腺様分化を伴った類基底細胞癌を認めた食道表在癌の一例を経験した.症例は58歳の男性で,嚥下時のつかえ感を主訴に前医を受診し,胸部食道癌の診断で手術目的に当科を紹介受診した.術前の上部消化管内視鏡検査では胸部中部食道を中心とした広範な0-IIc+IIb病変を認め,生検の結果,中分化型扁平上皮癌と診断された.胸部CTおよびFDG-PETで右反回神経周囲リンパ節に転移を認めた.以上より右開胸開腹食道亜全摘,胸骨後経路胃管再建,頚部食道胃管吻合術を施行した.切除標本肉眼所見では,病変はUtからAeにおよび,長径110oの0-IIc+IIb病変であった.病理検査では,中分化型扁平上皮癌が広く上皮内に伸展し、粘膜下浸潤部では基底細胞に類似した腫瘍細胞が,充実性胞巣,索状構造,および腺様構造を形成していた.免疫染色では,基底細胞のマーカーであるp63が陽性であった.一方,同部はMUC2陰性,MUC6陰性,MUC5AC陰性,MUC5B陽性であり,正常食道腺と同じ染色パターンであり,この部位は腺様分化を伴う類基底細胞癌であると考えられた.食道癌取り扱い規約ではpT1b, pN1, sM0, pStage IIであった.