一般的に食道癌の診断にはヨード染色が有用であり癌の部分は不染帯を呈するが、基底層型癌はヨード淡染または良染される。最近開発されたNBI拡大内視鏡は、基底膜近傍の血管異常を詳細に観察することが出来る。今回我々はヨードに染色されたが、NBI拡大観察にて血管異型を認めたために診断し得た食道基底層型粘膜内癌の1例を経験したので報告する。
症例:70歳代男性
生活歴:飲酒歴なし、喫煙40本/日×50年間。
現病歴:近医から上部胸部食道に褪色小顆粒状隆起を認め食道癌疑いにて紹介された。
内視鏡所見(初回):切歯列から28cmに褪色調の小顆粒隆起を認め、拡大内視鏡ではIPCLの不整・拡張を認めたが、血管密度の上昇は認めなった。ヨード染色では一部は淡染を呈したが、大部分では良染を呈した。血管密度の上昇がなかったことよりDysplasiaと判断し、短期間で内視鏡follow upを行うこととした。
IDUS所見:腫瘍は粘膜固有層内のhypoechoic massとして描出された。
6ヶ月後内視鏡所見:通常観察では褪色調の小顆粒隆起は形態・サイズともに変化はなかった。NBI拡大観察では白色顆粒の中心に血管密度は低いもののIPCLの拡張・不整を認めた。ヨードには基本的に染色されるが、隆起部で一部淡染の部分もあり、褪色調であることから角化を伴う食道癌を疑った。
経過観察中に、形態に大きな変化はないもののNBI拡大所見はやはり癌を否定できない所見が続いた。生検では基底部に軽度腫大した核を認めたが、病理医間でlow grade SCC〜非腫瘍まで意見が分かれたためにTotal Biopsy目的でESDを行うこととした。
NBI観察下にIPCLの拡張・不整の範囲の周囲にHookナイフを用いてマーキングを行い、ESDを施行した。
病理診断:Esophageal carcinoma, SCC, pType0Ua,Tis(m1),ly0,v0,LM(-),VM(-),12×7mm(in 39×25mm)であった。癌は基底層型で粘膜固有層上層はグルコーゲンが豊富であった。基底層が乳頭に添って上方に伸び上がり隆起している部分では腫瘍が表層まで存在していた。
考察:食道基底層型癌は表層にはグリコーゲンを有するためにヨードでの診断は困難である。NBI拡大観察では基底膜近傍の異常な血管を捕らえることが出来たために局在診断・範囲診断を正確に行うことができたと考えた。NBI拡大観察は、病変の局在診断・範囲診断にも有用であった。