日本消化器内視鏡学会甲信越支部

61. 膵嚢胞に対する経乳頭的ドレナージが有効であった1例

山梨大学 医学部 第1内科
小林 祥司、深澤 光晴、三浦 美香、花輪 充彦、大高 雅彦、佐藤 公、榎本 信幸

68歳男性。2005年4月、11月にアルコール性慢性膵炎の急性増悪の診断で前医に入院。退院後も飲酒を続けていた。2006年4月10日より上腹部痛が出現し、4月12日同院を受診、腹部CTで14cm大の膵嚢胞を認めたため入院となった。絶食、中心静脈栄養管理により症状は軽快し、5月6日には膵嚢胞は5cmまで縮小した。しかし5月15日から再び上腹部痛が出現、嚢胞の増大を認めたため、膵嚢胞ドレナージ目的で6月9日当院への転院となった。既往歴は18歳時に虫垂炎で虫垂切除。飲酒歴は20歳から入院前までウイスキー原液量で250ml/日。入院時身体所見では腹部は平坦・軟で上腹部に圧痛を認めた。筋性防御、腹水は認めなかった。入院時検査所見ではWBC 12530 /μl, CRP 2.36 mg/dl, ALP 499IU/l, γ-GTP 150 IU/l, AST 55 IU/l, ALT 99IU/l, Amy 522 IU/lと炎症反応の軽度上昇と肝胆道系酵素、膵酵素の上昇を認めた。腹部CTでは膵尾部に10cm大の嚢胞を認めた。上部消化管内視鏡では胃体部に嚢胞による壁外圧排を認めた。嚢胞が主膵管と交通している場合、経乳頭的ドレナージを第1選択と考え6月13日内視鏡的逆行性膵管造影を施行した。主膵管はやや拡張、尾部で嚢胞との交通を認めたためガイドワイヤーを膵嚢胞内まで進め5Fr ENBDチューブを留置した。留置後チューブからの排液は300ml/日以上と良好で嚢胞は著明に縮小し症状は消失した。6月27日留置チューブを抜去し、膵管ステント(5Fr,9cm)を留置した。その後も嚢胞の増大を認めず、食事を開始したが経過順調で退院となった。3ヶ月後に膵管ステント交換を予定している。慢性膵炎に伴う膵仮性嚢胞は1.症状を有する場合、2.出血、感染など合併症を伴う場合、3.増大傾向がある場合治療の適応となる。今回我々は症状を有する膵仮性嚢胞に対して経乳頭的ドレナージを行い、良好な経過をたどった症例を経験したので文献的考察を加え報告する。