日本消化器内視鏡学会甲信越支部

60. 右腎周囲膿瘍との鑑別を要した急性膵炎の1例

長野県立木曽病院 外科
小林 正経、酒井 宏司、小山 佳紀、久米田 茂喜
長野県立木曽病院 内科
高橋 俊晴、小松 健一、飯嶌 章博
信州大学 病理
下条 久志

症例は82歳男性。既往歴に胃癌、糖尿病、脳梗塞があり近医にて通院加療中であった。平成18年6月28日より全身倦怠感、7月1日より上腹部痛が出現したため近医を受診、腸閉塞を疑われ、同日、当院外科に紹介された。体温37.8℃、右側腹部に圧痛、反跳痛あり。血液検査上、白血球14980/mm3(好中球88.9%)、アミラーゼ906IU/l(膵アミラーゼ825IU/l)、CRP23.1mg/dlと上昇を認めた。CTにて膵頭部周囲から右腎周囲の脂肪濃度上昇を認め、右腎周囲膿瘍の疑いで緊急手術を施行した。しかし、周囲には明らかな膿瘍は認められず、広範な後腹膜脂肪組織壊死と貯留液中のアミラーゼ40400IU/l(膵アミラーゼ38600IU/l)と上昇していたことから、膵炎と診断し後腹膜洗浄ドレナージを施行した。十二指腸背側や結腸を確認したが、穿孔など明らかな異常所見は認めなかった。術中膵頭部に硬い腫瘤を触知し、画像検査で末梢側の膵管拡張を認めたことから、腫瘤形成性膵炎や膵頭部癌、胃癌の局所再発等が考えられたが確定診断に至らず、精査加療目的に内科転科となった。EUS、ERCPにて膵頭部主膵管内に2個10mm大の結石(膵石)を認め、尾側膵管の拡張を伴っていた。これらの所見から慢性膵炎が背景にあり、膵石の嵌頓により今回の膵炎発作を発症したものと考えられた。膵管口切開、膵石を除去した。経口摂取再開後は腹痛等の症状なく経過し、病状が軽快したため8月31日に退院した。画像所見上、右腎周囲膿瘍と紛らわしく診断に難渋した膵炎の1例を経験したので、若干の文献的考察を加えて報告する。