【目的】胃瘻チューブからの栄養療法を施行中の患者のうち,噴門部機能低下による胃食道逆流が著明な例においては,誤嚥性肺炎が頻発することが多い.TGJチューブは,先端を幽門を越えて空腸内に留置することが可能であるため,栄養剤の誤嚥の発生頻度を減らすことができる可能性がある.今回われわれは,TGJ留置による誤嚥性肺炎予防に関する有用性および留置に伴う問題点について検討した. 【対象と方法】当院におけるTGJ留置の適応は,胃瘻より経腸栄養を行っているものの胃食道逆流によると思われる誤嚥性肺炎を繰り返し,栄養剤の固形化などの対応を行っても誤嚥性肺炎を繰り返す症例である.今回の検討では,2006年1月から2006年8月までに当院にてTGJを留置した全5例を対象とした.内訳は,男女比=3:2,平均年齢は79.8歳(62〜93歳),平均観察期間は84.8日 (32〜126日)であった.検討項目は,留置成功率,チューブトラブル,留置前後での誤嚥性肺炎発生率の変化,栄養状態の変化とした.【結果】5例全例で留置に成功し,観察期間中にチューブ閉塞が1例,チューブ破損が1例,自己抜去が1例のチューブトラブルが見られた.胃瘻栄養時,TGJ栄養時各症例の合計観察期間はそれぞれ721日,319日であり,その間の誤嚥性肺炎の発生率は,0.0194回/日から0.0063回/日へと低下したものの有意差は見られなかった.術前および術後1ヶ月の血清総蛋白,アルブミン量の平均値はそれぞれ5.87g/dlから6.15g/dl,2.02g/dlから2.25g/dlへとわずかに改善が見られたが有意差は見られなかった.経過中に1例が褥瘡感染による敗血症にて死亡したが,TGJ関連死や誤嚥性肺炎関連死は見られなかった.【結語】TGJ留置に伴う問題点として重篤なものは認めなかった.有意差は認められなかったものの,TGJ留置による誤嚥性肺炎の予防効果や栄養状態改善は示唆された.今後更なる長期間の経過観察と症例数の蓄積が必要であると思われた.