日本消化器内視鏡学会甲信越支部

53. 化学療法中に胆嚢壊死を起こした切除不能進行胃癌の1例

独立行政法人国立病院機構 松本病院 外科
北沢 将人、小池 祥一郎、中村 俊幸、赤羽 康彦
独立行政法人国立病院機構 松本病院 内科
長屋 匡信、松林 潔、宮林 秀晴、古田 清
独立行政法人国立病院機構 松本病院 臨床検査科病理
中澤 功

症例は64歳男性.糖尿病にて内服加療していた.術前診断は下部食道から胃体上部小弯におよぶ3型進行癌であり,多発肝転移を認めた.経口摂取不能であり,バイパスないし胃全摘予定であったが,開腹すると腫瘍は漿膜より露出し,横隔膜と膵体部から頭部まで直接浸潤し,多数の腹膜播種を認め,切除不能と判断し試験開腹のみとなった.術後第4病日より,low dose FPを開始(5FU 250mg/body 持続静脈/24時間 連日,nedaplatin 5mg/body 点滴静脈注射/30分 毎週1-5日,4週間投与1週休薬)した.1コース終了の時点で肝転移は著明に縮小し,2コース目を開始したが,5日目に右季肋部痛が出現した.胆嚢炎と診断し化学療法を中止,抗生剤投与を開始した.抗生剤投与後も症状は改善せず,PTGBDを挿入した.挿入後,一時は症状は改善傾向であったが,再び右季肋部痛と高熱が出現,右胸水も貯留する状態となった.CTにて胆嚢壊死,腹腔内膿瘍と診断し,全身状態不良であったため局所麻酔下に切開排膿を行った.その後は解熱し,全身状態も安定し,経口摂取可能になったためTS-1内服を開始した.排膿が続くため全身麻酔下に壊死胆嚢摘出,膿瘍切除・ドレナージを行った.胆嚢管の処理が困難であり,術後胆汁漏となったが,ERBD挿入し改善した.切除不能進行胃癌の化学療法中に胆嚢壊死を起こし,治療に難渋した症例を経験したため報告した.糖尿病と化学療法による副作用が原因と考えられた.治療には難渋したが,CT上肝転移はほぼ消失し,胃の通過障害は改善,術前腫瘍マーカーCEA 128.2ng/ml, CA19-9 1282 ng/mlもほぼ正常化しており化学療法は著効している.