日本消化器内視鏡学会甲信越支部

43. 多彩な画像所見を呈する巨大後腹膜脂肪肉腫の1例

新潟県立新発田病院 内科 
阿部 聡司、夏井 正明、岩永 明人、玄田 拓哉、姉崎 一弥、本間 照、関根 輝夫

後腹膜脂肪肉腫は稀な疾患であるが、後腹膜原発悪性腫瘍のうち悪性繊維性組織球症と並び最も頻度が高い。今回われわれは多彩な画像所見を呈する巨大後腹膜脂肪肉腫の1例を経験したので報告する。症例は31歳、女性。数年前より下腹部の膨隆が出現し、徐々に増大した。本年1月より股間の腫瘤感を自覚し、3月はじめに産婦人科医院を受診。子宮脱および腹部腫瘍と診断され、8日に当科に紹介、入院となる。現症では腹部全体が膨隆していたが、軟で圧痛はなかった。腹部単純CTでは肝右葉直下に内部ほぼ均一なlow densityの腫瘤とその尾背側に内部不均一なlow densityの腫瘤を認め、これらの周囲から尾側にはびまん性のhigh densityな索状構造物を内包する巨大なfat densityの腫瘤が拡がっていた。造影CTでは肝右葉直下の腫瘤はほぼ均一に、尾背側の腫瘤は不均一に造影された。腹部MRIでは肝右葉直下の腫瘤はT1強調像で内部ほぼ均一な筋肉と同等の低信号、T2強調像で高信号を呈し、尾背側の腫瘤はT1強調像で筋肉と同等の低信号内にやや高い信号、T2強調像で高信号内に低信号が混在していた。一方、CTでfat densityを呈した周囲の腫瘤はT1、T2強調像でほぼ均一な高信号を呈した。これらの腫瘤により右腎は正中まで、消化管は左側に圧排偏位されていた。腹部CT、MRI所見より周囲の巨大な腫瘤は高分化型の脂肪腫類似型脂肪肉腫、肝右葉直下と尾背側の腫瘤は他の組織型の脂肪肉腫と診断し、31日に腫瘍摘出術が行われた。摘出された腫瘍の重さは5.3kgであった。病理学的には周囲の巨大な腫瘤は大部分が成熟した脂肪細胞から成り、その中に少数の異型脂肪芽球がみられる脂肪腫類似型脂肪肉腫であり、肝右葉直下の腫瘤は粘液状基質の中に紡錘形ないし星芒状の低分化脂肪芽細胞がみられ、尾背側の腫瘤内には上述のふたつの組織像が混在し、さらに中心付近に線維化、硝子化および壊死を伴っていた。現時点で再発は認めないが、根治術後であっても局所再発率は決して低くないため注意深く経過を追う予定である。