日本消化器内視鏡学会甲信越支部

44. エルシニアによる胃蜂か織炎の1例

新潟市民病院 消化器科
五十嵐 健太郎、古川 浩一、横尾 健、滝沢 一休、池田 晴夫、相場 恒男、米山 靖、和栗 暢生、月岡 恵

症例は53歳,女性.既往歴:38歳の時子宮切除術.平成18年7月急に上腹部痛が出現し次第に痛みと嘔吐が増強するため2日後当院の救急外来を受診した.上腹部に圧痛を認めたが筋性防御は存在しなかった.CTにて胃壁がびまん性に肥厚しており造影効果を認めなかった.直ちに上部消化管内視鏡を施行した.胃角部から胃前庭部にヘマチンが付着し,粘膜は浮腫状でびらん,潰瘍が多発していた.膿汁が付着したような所見も認められた.強いAGMLと考えたが炎症反応が高度であるため,ファモチジンのほか抗生剤も投与した.しかし,上腹部痛や嘔吐はなかなか改善せず内視鏡を再検して胃の組織培養を行なったところ,Yersinia enterocoliticaが検出され胃蜂窩織炎と診断した.H. pyloriは陰性であった.菌の薬剤感受性試験の結果により感受性のよい抗生剤に変更したところ症状の改善を認め保存的に治療できた.よく問診すると,患者は近隣の湧水を生で摂取する習慣があり感染経路の可能性があった.しかし軽度の耐糖能の異常を認めるほか免疫力の低下を示唆する所見はなく蜂窩織炎をを起こす誘因は不明であった.エルシニアが胃腸炎ではなく胃蜂窩織炎を惹起することは極めてまれと考え報告した.