日本消化器内視鏡学会甲信越支部

39. 肝膿瘍、脳膿瘍を契機に診断された無黄疸性胆管癌の一症例

富士見高原病院 内科
上田 恵美子、太田 裕志、矢澤 正信、小松 修、井上 憲昭、安達 亙、岸本 恭、塩澤 秀樹、中村 智次

症例は79歳男性。06年4月に発熱を主訴に受診。CTにて後区域中心に肝膿瘍が認められ、血培からa-streptcoccusが認められた。抗生剤投与にて改善したが、退院後9日目に再び39℃台の発熱がみとめられ、再入院となった。肝膿瘍の再燃は明らかではなく、頭部MRIにて大脳に複数のリング状造影効果を有する腫瘤が認められた。抗生剤の投与にて病変の縮小傾向が認められたため、大脳の多発病変は脳膿瘍と診断された。抗生剤の多剤併用療法開始後に行われたMRCPでは合流部付近に限局性の狭窄が疑われた。ERCPでも同部位に限局した胆管病変を認めた。生検は施行できなかったが擦過細胞診にてClass3Bが認められ、経過からも悪性疾患が疑われる為、8月に外科へ転科し、膵頭十二指腸切除を施行した。肉眼的には明らかな転移や膵への浸潤は認められなかった。病理では胆嚢管の合流部付近の肝管、総胆管を中心に胆管癌の特徴である小管腔構造を有する異型細胞が、周囲に強い繊維化を伴い、浸潤性に増生する像が認められた。膵実質への浸潤は無く、リンパ節転移も含め脈管浸潤は認められなかった。以上の経過から、胆管癌による胆道系の狭窄から感染をきたし、肝膿瘍、脳膿瘍を発症したと考えられる。しかし、全経過中、画像的にも肝内胆管の拡張はなく、胆道系酵素は上昇せず、黄疸も認められないままであった。このような無黄疸性の胆管癌で肝膿瘍から脳膿瘍を引き起こしたケースは比較的希と考え、今回報告する。