【症例1】80才、男性。Child分類Aのアルコール性肝硬変(感染症―)にて内科治療中に肝腫瘍を指摘された。肝機能はほぼ正常でAFPは1846 mAU/mlと高値であった。腹部造影CTでは肝左葉と肝右葉前区域のほとんどを占めるモザイク様びまん性腫瘤像が存在した。3D-CTアンギオおよび腹部血管造影では支配動脈領域に腫瘍濃染像が存在し、門脈本幹には欠損像を認め左門脈は描出不良であった。Vp4の手術不能びまん浸潤型肝細胞癌の診断でDSM, Epi-ADM, MMCを用いたDSM-TACEを5ヶ月間で計5回施行した。原発巣、門脈腫瘍塞栓は徐々に縮小し、治療後の肝機能悪化や腹水出現も無く、AFPも正常範囲内まで改善、その後も再発無く現在外来経過観察中である。【症例2】77才、男性。肝右葉に巨大な肝細胞癌(感染症―)を指摘され、他院でリピオドールTAEを施行後に再び腫瘍の増大を認め来院。肝機能障害は無く、AFP154ng/ml、PIVKA II 2040mAU/mlと高値であった。腹腔動脈造影では肝右葉に腫瘍濃染像を認めたが門脈に異常所見は無かった。この時点で患者が手術を拒否したためDSM-TACEを4ヶ月間で計6回施行した。原発巣は徐々に縮小したが治療開始後5ヶ月目から肝膿瘍が出現した。保存的治療にて改善せずDSM-TACEの継続も困難となり肝右葉切除を余儀なくされた。【結語】DSM-TACEを施行した肝細胞癌の2例を経験した。DSM-TACEは門脈腫瘍塞栓などによりTAE (transcatheter arterial embolization) が禁忌とされている高度進行肝癌症例、強い肝障害を引き起こす可能性があるリピオドールTAEが困難な肝硬変合併症例、びまん浸潤型肝癌症例に対して有効な治療法となる可能性が示唆された。しかし一方で腫瘍の急激な壊死による肝膿瘍の合併を常に念頭に置き、適正な薬剤量や治療間隔を決定する必要があると思われた。