日本消化器内視鏡学会甲信越支部

29. 腫瘍内出血を起こし特異な画像所見を呈した肝細胞癌の1例

山梨大学 医学部 第1内科
田中 宏一、松井 啓、北村 敬利、山口 達也、植竹 智義、井上 泰輔、坂本 穣、大塚 博之、大高 雅彦、前川 伸哉、岡田 俊一、佐藤 公、榎本 信幸

【症例】 78歳女性【主訴】 symptom free【現病歴】 1995年からC型肝硬変で経過観察中であったが、2006年5月16日定期外来受診したところ黄疸が認められ、血液検査でT.Bil 5.2および肝胆道系酵素の上昇を認めた。直ちにCTを実施したところ、胆嚢内血腫が疑われたため、同日緊急入院となった。【既往歴】 28歳日本住血吸虫症治療、62歳気管支喘息、76歳大腸ポリープ(polypectomy)【家族歴】 特記すべきことなし。【患者背景】 輸血歴 (-)、飲酒歴 (-)【入院時現症】 Ht 140cm、BW 44kg、BP 160/64mmHg、PR 78bpm、結膜は黄疸あり、貧血なし。心肺に異常なし。腹部は平坦・軟、左下腹部に軽度圧痛あり。肝を正中線上で3横指触知、弾性硬、辺縁鈍。腹水なし、四肢に浮腫なし。【検査所見】 WBC 4730/μl, RBC 435×106 /μl, Hb 13.5mg/dl, Plt 8.5×103/μl, PT 52.6%, TP 7.8g/dl, Alb 4.1g/dl, ZTT 16.3KU, T.Bil 5.2mg/dl, D.Bil 3.9mg/dl, ALP 616IU/l, γ-GT 282IU/l, LDH 434IU/l, AST 231IU/l, ALT 354IU/l, HBsAg (-), HBcAb (-) , HCV Ab (+), AFP 89.8ng/ml, L3分画 8.3%, PIVKA-2 45mAU/ml【画像所見】AUSでは肝右葉は著明に萎縮し観察不良であった。単純CTで萎縮した右葉から突出するように径6cm程の内部不均一に高濃度の腫瘤を認め、造影CTでは造影効果を認めず、内部構造が認められないことから、内部に出血し緊満した胆嚢を疑った。しかし、第2病日のMRCPで同部とは別に胆嚢が確認され、内部に血腫を形成したHCCの可能性が高いと考え、第3病日に血管造影を行った。肝右葉後区に6cm程の辺縁に染まりを持つ腫瘤を認め、腫瘤内部に血管外漏出を疑わせる不整形の造影域を認めたため、右肝動脈に対しTAEを実施した。TAE後のCTでは腫瘤辺縁部にリング状にリピオドールの集積を認めた。【考察】腫瘍内部に出血を起こした原因は不明であったが、半年前のMRIで同部に腫瘤は認められておらず、HCCが急速に発育したためではないかと思われた。痛みなどの症状を伴うことが多いと思われるが、本症例のように有意な症状がみられない場合もあり、肝硬変の経過観察において注意を要すると思われた。【結語】今回、特発性かつ無症状に腫瘍内部に血種を形成し、特異な画像所見を示した肝細胞癌の1例を経験したので報告する。