日本消化器内視鏡学会甲信越支部

24. アルコール性肝硬変に合併したspur cell anemiaの1生存例

山梨大学 医学部 第1内科
渡邊 敦、坂本 穣、三浦 美香、進藤 浩子、花輪 充彦、大高 雅彦、岡田 俊一、榎本 信幸

 症例は43歳、女性、大酒家。2001年から前医で肝機能障害を指摘されていた。今回は2006年2月より食欲不振・黄疸・浮腫を認めていたが、3月17日腹痛・嘔吐・下痢を主訴に受診した際にT.Bil 23と黄疸の増悪を認め入院となった。入院後、自覚症状は改善したが、黄疸は改善せず貧血の著明な進行を認めたため4月19日当院へ転院となった。 転院時、RBC 149万、Hb 5.3、Ht 15.9、Plt 11.6 万、TP 6.4、Alb 2.9、T.Bil 15.6、D.Bil 10.5、ALP 636、γGTP 50、LDH 576、AST 86、ALT 48、PT 32%で、経年にわたる多量の飲酒歴からアルコール性肝硬変と診断した。この後、安静・臥床・禁酒により肝不全は徐々に改善したが、貧血の改善はなく定期的に濃厚赤血球輸血を行いHbを維持した。貧血の原因は、消化管などの出血はなく、葉酸・VitB12欠乏なく、クームス試験も陰性から巨赤芽球性貧血や溶血性貧血は否定的であった。末梢血塗抹標本像では有棘細胞様変化を認め、臨床経過を併せ有棘細胞性貧血(spur cell anemia)と診断した。肝不全に対して肝移植も考慮したが本人が希望せず、保存的治療により慎重に経過観察を行った。この後、輸血を施行せずとも貧血の進行がなくなり、7月24日Hb 8.5と回復し、全身状態も安定したため退院となった。Spur cell anemiaはアルコール性肝硬変に合併する比較的稀な予後不良な疾患である。しかし対症的な濃厚赤血球輸血以外の治療法は確立されておらず、発症機序や治療法についての解明が待たれている。最近では肝移植も検討されているが、肝不全の程度や経過中の感染症やDICの発症が予後を決定するとされている。本例は、アルコール性肝硬変に合併したspur cell anemiaの1生存例として貴重な症例と考えられ、文献的考察を含め発表する。