日本消化器内視鏡学会甲信越支部

21. 腹部大動脈瘤術後に発生した遺残内腸骨動脈瘤直腸穿破を内視鏡的に診断し得た1例

諏訪赤十字病院消化器科
原 浩樹、進士 明宏、高山 真理、沖山 洋、武川 建二、山村 伸吉、小口 寿夫
諏訪赤十字病院心臓血管外科
坂口 昌幸、竹村 隆広
信州大学心臓血管外科
福井 大祐

症例は84歳男性。主訴は血便,発熱。既往歴として,1992年に腹部大動脈瘤に対し人工血管置換術を受け,この時両側内腸骨動脈は空置された。2002年に空置された左内腸骨動脈にφ8cmの動脈瘤を指摘されたが,手術を希望しなかった。また,2001年からCOPDのため,在宅酸素療法を受けていた。2006年6月1日,血液の混じた下痢を主訴に当院へ入院。胃腸炎と考え,保存的加療を行い下痢は軽快したものの,10日より発熱を認めた。明らかな感染巣が不明であり,精査を行いつつ抗菌剤にて経過を見ていたところ,26日に突然大量の血便を認めた。大腸内視鏡を施行したところ,Rsにφ3mmほどの円形の陥凹を認め,その奥には肉芽組織が観察された。特に出血は認めなかった。カテーテルを用いて陥凹に造影剤を注入したところ,腸管外に造影剤が漏出した。直後に腹部CTを施行したところ,左内腸骨動脈瘤内に造影剤が確認され,内腸骨動脈瘤直腸穿破と診断し,腸管との瘻孔により感染・出血を来したと考えられた。ただちに信州大学病院に転院し,心臓血管外科にて動脈瘤切除術,Hartmann術を施行した。経過は良好であり,その後感染徴候なく退院した。本例は空置された動脈に発生した動脈瘤であり,血流は側副血行路を介した低圧な状態であったため,致命的な出血を起こさなかったと考えられた。術前に動脈瘤直腸瘻を内視鏡的に診断し得た貴重な症例と考え,文献的考察を加え報告する。