日本消化器内視鏡学会甲信越支部

20. 保存的治療により軽快した巨大な穿通性直腸潰瘍の一例

長野赤十字病院 消化器科
伊藤 哲也、倉石 章、原 悦雄、森 宏光、松田 至晃、和田 秀一
長野赤十字病院 外科
袖山 治嗣

症例は80歳女性。平成18年4月18日突然の下腹部痛、嘔気、嘔吐、血便を認め近医受診。抗生剤投与にて自覚症状は軽減し約一週間後同院にて下部消化管内視鏡検査を施行された。直腸Rsに巨大な潰瘍性病変を指摘され、同部位の生検が施行された。翌日より腹痛、発熱、血便を認め症状が改善しないため5月1日当院紹介入院となった。入院時の下部消化管内視鏡検査ではRsに管腔と誤認するほどの深い潰瘍性病変を認め、中央に凝血塊を混じた便塊を認めたが、同病変の周囲に憩室、潰瘍は認めなかった。腹部CT検査にて直腸から子宮に連続する軟部陰影を認め周囲の脂肪濃度は上昇し、一部腸管外へのair leakを認めた。MRI検査でも直腸周囲に波及する炎症の所見であった。下部消化管内視鏡の再検では潰瘍は口側辺縁近傍で深い円錐状の形状であり、注腸検査では直腸Rs左壁に約65mmの潰瘍性病変として描出された。婦人科的には明らかな疾患を認めなかった。前医にて施行された潰瘍中心部の生検にて好中球浸潤に富む脂肪織が得られ、脂肪織は漿膜下層のものである可能性が高く、穿通性潰瘍を示唆する所見と考えられた。自覚症状が軽微なため絶食、中心静脈栄養および抗生剤投与にて慎重に経過を観察したところ、その後徐々に自覚症状および血液検査所見も改善した。第23病日に施行した腹部CTでは腸管外ガスが消失しており、直腸周囲の炎症所見は改善し穿通部位付近の瘢痕化を認めた。同時期の内視鏡では潰瘍は一段深い陥凹を残しながら治癒傾向を示した。約1ヶ月の絶食後経口摂取を開始したが、炎症の再燃なく第47病日に退院となった。その後の内視鏡検査でもさらに潰瘍は著明に改善している。本症例の直腸潰瘍の成因としては、病変部位以外に憩室や炎症性疾患を示唆する所見が見られず、慢性的な高度の便秘を認めていたことから宿便潰瘍と考えた。本症例は比較的大きな穿通性直腸潰瘍であるにもかかわらず保存的治療にて軽快し、その過程を経時的に内視鏡検査で経過観察し得たので文献的考察を加えて報告する。