日本消化器内視鏡学会甲信越支部

18. 肛門周囲膿腫を芸発した直腸癌の2例

新潟県立がんセンター新潟病院外科
川原 聖佳子、瀧井 康公、野村 達也、中川 悟、土屋 嘉昭、梨本 篤

【症例1】40代男性。2006年1月から血便、水様便、その後、排便時肛門痛、肛門周囲に空気が出る感じがあり、4月に近医受診し、直腸診で直腸癌が疑われた。4月13日当科紹介され、外来精査中に右側の肛門周囲痛増強と発熱を認め、肛門周囲膿瘍を伴った直腸癌の診断で4月27日入院。二期的手術の方針で、5月2日S状結腸人工肛門造設と膿瘍に対し切開排膿施行した。術後は臀部の膿からMRSAが検出され、発熱を認めたが治療により解熱した。炎症が落ち着くまでの間、5月16日からIRIS療法(CPT-11/TS-1)を2コース施行し、7月12日根治手術として腹会陰式直腸切断術、D3を施行した。病理診断は[RbP] type2, 90x65mm, well>mod, a1, ly2, v2, n(-), 化学療法効果判定はGrade 1aであり、病期はa1n(-)P0H0M(-) stage IIであった。術後はドレーンからの出血やMRSA感染による発熱を認めたが、保存的に治癒し8月6日退院した。【症例2】60代男性。2006年2月から下痢と便秘の繰り返し、その後血便があり、5月に近医受診し、直腸診で直腸癌が疑われた。左臀部に自壊しかけた膿瘍も認め、5月22日同院入院した。肛門周囲膿瘍を伴った直腸癌、前立腺浸潤の診断で5月29日当科紹介され、高濃度流動食と末梢点滴で栄養管理し炎症消失後、6月19日当科転院。入院時の瘻孔部培養でMRSAが検出されたが、局所の炎症はほとんど無く、一期的手術の方針で、6月21日腹会陰式直腸切断術、D1、前立腺合併切除を施行した。病理診断は[RbP] type2, 60x52mm, well>mod, ai (前立腺、精嚢), ly2, v2, n3(+)、病期はain3(+)P0H0M(-) stage IIIbであった。術後は膀胱尿道吻合部の縫合不全を認めたが保存的に治癒した。また、7月6日中等度の肺塞栓症を発症したが、保存的に軽快し7月29日退院した。現在、術後補助科学療法としてUFT/LV施行中である。【考察】直腸癌穿通による肛門周囲膿瘍は頻度の高いものではない。手術の際には炎症と癌の範囲の区別がつきにくく、また術後感染対策の面からも術前の局所の炎症コントロールは必須で、今回の2例は術後の創感染を認めなかった。しかし、その他にも予期しない合併症を併発し、術前から炎症がある場合は全身炎症ととらえて注意深い周術期管理を行うことが大切である。