日本消化器内視鏡学会甲信越支部

14. ESDにて局所制御可能であったS状結腸MALTリンパ腫の1例

佐久総合病院胃腸科
富田 貴子、堀田 欣一、小山 恒男、宮田 佳典、友利 彰寿、高橋 亜紀子、新井 陽子、古立 真一、北村 陽子、篠原 知明、山里 哲郎、浜内 諭

【症例】70代、男性。便秘を主訴に当院を受診し、全大腸内視鏡検査を施行したところ、S状結腸に15mm大の平皿状の粘膜下腫瘍を認めた。表面平滑で潰瘍形成はなく、鉗子で触診すると軟らかい病変であった。表層には毛細血管が増生し、拡大観察にて伸展された1型pitを認めた。生検にて粘膜固有層に多数の中型異型リンパ球の浸潤及び、lymphoepithelial lesion(LEL)を認め、MALTリンパ腫を疑った。EUSにて第3層上層に、内部エコーがやや不均一な低エコー腫瘤を認め、深達度SM浅層と診断した。腹骨盤CTにてリンパ節転移や他臓器への転移はなかった。以上より、S状結腸の単発性MALTリンパ腫を疑ったが確定診断に至らず、診断的治療として内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を施行した。CO2送気を用いて、局注液はアルツ?の4倍希釈を使用した。Hook KnifeとFlex Knifeで、粘膜切開及びトリミングを行ったが、線維化は殆ど認められず、通常のESD同様の手技で一括切除し得た。病変は退色調の扁平隆起性病変で、表層には拡張した血管を認めた。立ち上がりはなだらかで、中央部に浅い陥凹を伴っていた。実態顕微鏡像では伸展した1型pitを認めた。病理組織学的には粘膜固有層から粘膜下層浅層を主座とする中型異型リンパ球の浸潤を認めた。これらは胚中心細胞に類似し、CD20陽性、CD3、CD5、CD10、cyclin-D1陰性であった。最終診断はExtranodal marginal zone B-cell lymphoma of MALT type,SM1(950μm),ly0,v0,DM0,PM0,RM0,16×12mmであった。ESD後約6ヶ月経過時点で、明らかな再発なく経過観察中である。
【考察】大腸MALTリンパ腫の治療は、H.pylori除菌療法や抗生物質投与の有効性が報告されているが、標準的治療はまだ確立されていない。ESDは正確な一括切除が可能なため、本例のような単発で粘膜下層浅層に留まる病変の切除法として有用だが、異時多発病変やリンパ節転移に対する慎重な経過観察を留意すべきである。