日本消化器内視鏡学会甲信越支部

10. 多発大腸癌を合併した大腸腺腫症の1例

国立病院機構長野病院消化器科
武田 龍太郎、藤森 一也、中辻 良幸、滋野 俊
国立病院機構長野病院研究検査科
前島 孝俊

症例は56歳、男性。主訴は下痢。既往歴に55歳、脳梗塞、56歳、心筋梗塞。家族歴では、両親、3人の子に大腸疾患はない。平成17年2月頃から一日数回の下痢が出現した。近医で整腸剤を処方されたが症状に変化なく、同年4月当院を紹介された。腹痛、嘔気、嘔吐、血便、体重減少はなかった。当院受診時、身体所見に異常を認めなかった。血液検査では、RBC 515 Hb 13.0 Hct 42.5 WBC 5900 PLT 30.6 Fe 29 TIBC 429 UIBC 400 、肝機能、腎機能に異常なし、腫瘍マーカーはCEA 2.1, CA19-9 9.1 と正常であった。大腸内視鏡検査では、直腸から盲腸まで多数のポリープを認めた。下行結腸から左側横行結腸には主にIp 型のポリープが密集してみられた。直腸、S状結腸および右側大腸にはIs またはIsp 型ポリープが散在性に認められた。また下行結腸には大きめの隆起性病変を認め大腸癌が疑われたが、多数のポリープにより十分な観察はできなかった。注腸造影検査でも内視鏡検査と同様の所見であった。上部消化管内視鏡検査では、胃体上部に数個の胃底腺ポリープを認めた。胸腹部CT検査、パントモグラフィーでは、他臓器に異常所見を認めなかった。以上の所見から孤発性の大腸腺腫症および大腸癌と診断した。平成17年5月、当院外科にて全結腸直腸低位前方切除術を施行した。切除標本では、大腸全域にIs ないしIp ポリープの多発を認めた。特に下行結腸にはIp 型ポリープが比較的密集していたのに対し、それ以外の大腸ではIs 型ポリープが散在性に分布していた。また下行結腸には2型大腸癌、48 x39mm mod>wel, ss, ly1, v1 を合併していた。この他、大きめのポリープを主体に11個のポリープに癌の合併を認めた。残りのポリープは腺管腺腫であった。