日本消化器内視鏡学会甲信越支部

9. Collgenous colitisに早期癌を伴った1症例

長野中央病院 消化器内科
田代 興一、小島 英吾、太島 丈洋
長野中央病院 外科
成田 淳、彈塚 孝雄
長野中央病院 病理
束原 進

Collagenous colitisは他のinflammatory bowel diseaseと異なり発癌リスクのない良性疾患とされている。今回われわれは内視鏡的に炎症所見を認めたcollagenous colitisに右側結腸の早期癌を合併した症例を経験した。症例は79歳、女性。主訴は水溶性下痢。元来便秘症でセンナ葉エキス、乙字湯処方されていた。2005年3月3日に腰椎圧迫骨折のためエトドラク処方開始された。2005年6月より間歇的に最大1日8行までの水溶性下痢が出現し、ロペラミド、半夏瀉心湯、塩化ベルベリンにて便通調節されていた。しかし症状軽快しないため2006年5月15日大腸内視鏡検査を施行した。上行結腸を中心に発赤、びらん、粗造な粘膜を認め、生検にて上皮下にcollagen bandを認めcollagenous colitisと診断された。また上行結腸に小陥凹性病変を認め、生検で腺癌と診断された。2006年6月28日精査目的にて再度施行した大腸内視鏡検査では、炎症所見は著明に改善を認めた。また上行結腸バウヒン弁対側に約10mmの2c病変を認め、拡大観察を行ったところ、表面は5N pitを呈し、SM massiveに浸潤する癌と診断し、2006年7月28回盲部切除術を施行した。切除標本の観察では、大きさ9×6mmの高分化腺癌、Type 0-2c、SM、ly0, v0, n0であった。病変周囲の大腸粘膜には被覆上皮直下にcollagen bandが不連続に存在し、粘膜固有層内にリンパ球を主体とする炎症細胞浸潤を認めた。Collagenous colitisの診断後、エトドラクを中止したところ、下痢症状は1日0〜4行まで軽快した。便秘症再発あり、現在はセンナ葉エキス、酸化マグネシウム内服している。Collagenous colitisの発生機序に消化管管腔内有害物質の影響が示唆されており、collagenous colitisが右側に好発する理由と考えられている。本症例では炎症の中心領域に一致して発癌を認めており重要な症例と考えられた。