日本消化器内視鏡学会甲信越支部

8. ESDによる一括全周切除後に18回の拡張術を施行し、術後狭窄を予防し得た全周性バレット食道粘膜内癌の1例

佐久総合病院胃腸科
北村 陽子、小山 恒男、宮田 佳典、友利 彰寿、堀田 欣一、篠原 知明、高橋 亜紀子、古立 真一、新井 陽子、山里 哲郎

食道全周切除を行うと高度の狭窄を来し、術後QOLが著しく低下する。今回我々は全周性バレット腺癌に対して食道全周切除を施行したが、早期から拡張術を繰り返し、狭窄を予防し得た症例を経験したため報告する。症例:60歳台男性生活歴:飲酒2合/日、喫煙20本/日(20年間:平成3年から禁煙)現病歴:30年前から逆流性食道炎にて近医で投薬を受けていたが、EGDにて下部食道腺癌と診断され紹介された。内視鏡所見:SCJは舌状の伸びだしを認め、肛門側に柵状血管を認めバレット食道と診断した。バレット食道内に多発性不整隆起を認めバレット腺癌と判断した。肛門側前壁に0-Ipl隆起を認めるが柔らかい病変であり粘膜内病変と判断したが、病変口側にIIa+IIc様の厚みを伴う部分があり、この部分で一部sm浸潤が否定できなかった。EUS所見:口側後壁側のIIa+IIc様の厚みを伴う部分で3/5層の緋薄化を認め深達度m3-sm1と判断した。上部消化管造影検査:下部食道に多発性隆起を認めたが、側面変形は軽度であった。以上より深達度m3-sm1のバレット腺癌と診断し、全身麻酔下のESDにて長軸方向に6cmにわたる全周一括切除を行った。最終診断はwell differentiated Barrett's esophageal adenocarcinoma, m3, ly0, v0, LM(-), VM(-), Type0-I+IIa+IIb, 94×37mm(94×57mm)であった。 狭窄を予防するために、術後4日目から週2回の間隔で18mmのバルーン拡張術を繰り返した。当院において7回、近医で11回拡張が行われ、二ヶ月後にほぼ完全に扁平上皮化した。この時点でscopeの通過に問題なく、これ以上の拡張は不要と判断した。考察:本例は患者の強い希望でESDによる全周切除を選択したが、術後早期からバルーン拡張を繰り返すことで、狭窄を予防することが出来た。しかし本症例では18回もの拡張術を要し、又拡張時に穿孔した症例報告もあるため、全周切除術は慎重に行うべきと考えた。