症例は41歳、男性。主訴はない。2006年7月に近医での人間ドックの上部消化管内視鏡検査で食道下部に発赤した陥凹性病変を指摘され、生検で高分化型管状腺癌を認め当院に紹介となった。入院時理学的所見に異常はなく、検査成績は正常範囲内であった。上部消化管内視鏡検査では下部食道に淡発赤の円柱上皮が舌状に口側へ進展していた。2時方向には扁平上皮の間に長径15mmの発赤の強い陥凹性病変を認めた。辺縁は小結節状を呈していた。口側の扁平上皮との境はやや隆起し、扁平上皮下進展を疑った。拡大鏡では肛門側と3時方向への進展部に不整異常血管が認められ、病変範囲の認識は良好であった。口側境界は扁平上皮部に異常血管はみられなかった。細径プローブによる超音波内視鏡検査は病変を圧排する形での観察であったが、第3層は保たれていた。食道造影検査では腹部食道にわずかなバリウムの溜まりを有す透亮像を認めた。胸腹部CT検査で明らかなリンパ節転移は認めなかった。以上よりBarrett食道より発生した0―IIc食道腺癌で深達度は粘膜内にとどまると診断し、Hook ナイフによるESDで一括切除を行った。切除検体は40x34mm, 扁平上皮領域に主座する18x13mmの浅い陥凹性病変を認めた。組織学的には高分化型管状腺癌の増生を認め、病変中心部でわずかに粘膜筋板へ浸潤していた。口側には腺癌が扁平上皮下に進展していた。癌直下の粘膜下層に食道腺を認め、腺癌の間に重層扁平上皮の介在と2層性の粘膜筋板がありBarrett食道からの発生を示唆するものであった。最終診断はBarrett's esophageal adenocarcinoma, 0-IIc, tub1, m3, ly0, v0, LM(-), VM(-)であった。術後は合併症発生なく経過し、4日目より流動食を開始し9日目で退院となった。本例は近年増加が示唆されるshort-segment Barrett's esophagusから発生した食道腺癌である。Barrett食道癌の早期癌は少なく文献的考察を含め報告する。