日本消化器内視鏡学会甲信越支部

6. S-1/CDDP併用療法後にESDにて完全切除されたT1b(sm3)食道腺癌の1例

佐久総合病院胃腸科
高橋 亜紀子、小山 恒男、宮田 佳典、友利 彰寿、堀田 欣一、古立 真一、新井 陽子、篠原 知明、北村 陽子、山里 哲郎

【はじめに】近年、腺癌に対する化学療法が進歩したため、切除不能進行癌を化学療法によりdown stagingし外科的治療可能となった例はしばしば報告されている。しかし、化学療法で腫瘍が縮小したのちに内視鏡的切除し得た報告はない。今回、化学療法後腫瘍が縮小し内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)による完全切除が可能となった食道腺癌症例を経験したため報告する。
【症例】70歳代、男性。近医にて施行された上部消化管内視鏡検査(EGD)でEa後壁側に約2cm大の辺縁隆起を伴う発赤調の陥凹性病変を認め、生検にて腺癌と診断された。病変肛門側は食道胃接合部に接していたが主座は食道であったため、食道腺癌と診断した。またBarrett食道はなかった。超音波内視鏡検査(EUS)では固有筋層(mp)直上まで浸潤を認めた。胸部CTとEUSでリンパ節転移はなく、StageIa(T1N0M0)と診断した。高度の慢性閉塞性肺疾患(COPD)を合併していたため手術は行えず、mp直上まで浸潤があるためESDは困難と判断し、化学療法(S−1+CDDP)を選択した。2コース終了後のEGDで腫瘍は著明に縮小平坦化し、腫瘍の大部分は扁平上皮で覆われていた。EUSにて腫瘍は縮小していたが、sm層の一部にhypoechoic部を認め遺残が考えられた。化学療法は有効であったが、Grade3の食欲不振が出現したため継続は困難であった。当初ESDは不可能と判断していたが、化学療法前より腫瘍が縮小したためESDが可能になったと判断し、局所コントロール目的でESDを施行した。腫瘍周囲の粘膜下層に線維化を認めたが剥離は可能であり、一括切除し得た。最終診断はesophageal adenocarcinoma, well differentiated, sm2(210μm), ly0, v0, LM(-), VM(-), 0-IIa, 20×14mmであった。術後4ヶ月経過しているが、局所再発、リンパ節転移、遠隔転移はない。
【結語】本例は、化学療法により腫瘍が縮小したためESDにて完全切除することができた。合併症を有し手術困難な症例や高齢者では、化学療法後のESDも治療戦略の1つとなりうると考えられた。