日本消化器内視鏡学会甲信越支部

32. 横行結腸に狭窄を来たした動脈閉塞性腸管虚血と考えられた1例

新潟県立新発田病院 内科
岩永明人、姉崎一弥、本間 照、阿部聡司、玄田拓哉、夏井正明、関根輝夫
外科
畠山 悟、小山俊太郎、下田 聡
新潟大学大学院医歯学総合研究科分子病態病理
味岡洋一

 動脈硬化による慢性腸管虚血と考えられる、横行結腸の潰瘍性病変を経験した。 患者は、80歳男性。2005年6月頃より下痢、腹痛が出現し、難治のため、当科を紹介受診した。大腸内視鏡検査で横行結腸からS状結腸に散在性にびらん、浮腫状粘膜を認めた。びらんの配列に縦走傾向はみられなかった。その後も症状は繰り返し、増悪したため10月31日入院。大腸内視鏡検査で上行結腸から横行結腸にかけて黄白色調の壊死物質で覆われた半周性〜全周性の広い潰瘍性病変を認めた。注腸造影では、横行結腸に潰瘍、著明な壁硬化と管腔狭小化を認めた。腹部血管造影では、上腸間膜動脈起始部は造影されず、腹腔動脈からの膵頭部アーケードを介して上腸間膜動脈末梢が描出された。右結腸〜横行結腸動脈の描出は不良であった。上腸間膜動脈狭窄による慢性腸管虚血と診断し、抗血小板薬(cilostazol 100mg + ticlopidine 100mg /day)の投与を開始した。その後、症状は軽快したが、注腸造影にて、横行結腸に高度な狭窄が見られ、保存的治療の限界と考え、2月9日、横行結腸切除術を施行した。切除標本では狭窄を伴う帯状潰瘍と、その肛門側に一条の縦走潰瘍を認めた。潰瘍の介在粘膜はほぼ全域に渡って再生性の腺管で覆われていた。切除腸管の血管には組織学的に特異的な変化は認めなかった。術前に行った頸動脈エコーでは、両側内頚動脈に動脈硬化による狭窄像が認められた。 腸管虚血には様々な原因が挙げられるが、本症例は動脈造影所見からアテローム動脈硬化性腸管虚血と考えられた。