日本消化器内視鏡学会甲信越支部

26. 反復する前胸部痛・腹痛・背部痛を呈し内視鏡的に摘出後改善した 胆管内蛔虫迷入症の1例

国立病院機構松本病院 消化器科
宮林秀晴、松林 潔、清水郁夫、山田重徳、長屋匡信
同 内科
古田 清
同 外科
小池祥一郎

 症例は54歳・男性。主訴は右季肋部痛および心窩部痛。仕事のため頻回に中国や東南アジアへ出張することがあった。2005年7月から上腹部不快感にてN病院を受診し、症状から腸炎として入院加療。同年8月から背部痛を認め、同院での腹部CTにて膵仮性嚢胞を指摘され原因検索のため当科紹介となった。膵酵素は正常であったが膵炎後仮性嚢胞として入院加療し、原因検索として腹部超音波・CT・ERCPを施行したが明らかな異常所見を認めず、症状と仮性嚢胞の縮小傾向を認めたため退院した。その後中華料理摂取後の右前胸部痛と右季肋部痛で同年10月に入院。また、2006年1月に誘因はないが起床時から心窩部鈍痛・背部圧迫感を自覚し、増悪したため、再々度入院となった。膵炎の増悪の可能性を考慮し絶食・補液・抗生剤・膵酵素阻害剤を投与したが、症状は入院後も変化なく、肝胆道系酵素の軽度上昇を認め、腹部CTで総胆管に軽度拡張と内部に一部高輝度領域が認められたため総胆管結石を疑い再度ERCPを施行した。総胆管はやや拡張し、内部に索状影を認めた。EST施行後バルーンカテーテルで内容物の除去を行ったところ十二指腸乳頭より15mm程度の虫体が脱出し、以後スネアにて摘出した。病理検査ではヒト蛔虫(雌)であり、同虫の胆道迷入症および軽度の胆道炎と診断した。虫体摘出後症状は速やかに消失した。その後便中虫卵検査を行ったところ、不受精卵を認めた。このため小腸造影および大腸内視鏡にて他の虫体の検索を行ったが虫体は認められなかった。虫体の除去目的でパモ酸ピランテル内服後退院となった。以後症状は認めず外来経過観察中である。retrospectiveにみると2005年8月の時点で好酸球増多が認められ、同時期のERCでも胆管末端に虫体を疑わせる小さな陰影欠損が存在する可能性があった。反復する胸部・背部痛・腹痛・膵嚢胞がある場合には本疾患の可能性を考える必要がある。