【症例】65歳男性、特に症状はなし。既往歴・家族歴に特記することなし。【経過】2005年8月、検診の上部消化管内視鏡検査で胃穹隆部の隆起性病変を指摘された。近医で同部位からの生検を行い、印環細胞癌と診断され当院紹介入院となる。2002年の検診での内視鏡検査では異常を指摘されなかった。2003年の近医での内視鏡検査で同部位に4mm大のポリープを指摘されて経過観察をしていた。入院後の検査では胃穹隆部に15mm大、亜有茎性で分葉状を呈する粘液の付着の多い易出血性の病変を認めた。背景粘膜は萎縮を伴い、Helicobacter pylori陽性。上部消化管造影検査および超音波内視鏡検査で粘膜下層への浸潤が否定できず、噴門側胃切除術を行なったところ粘膜内に限局する印環細胞癌を認め、一部に過形成性の成分も認めた。T1N0M0 stageAの診断であった。
【考察】胃の未分化癌はほとんどが陥凹型であり隆起型は少ない。隆起を呈した印環細胞癌の隆起の機序は諸説ありいまだ不明である。本症例は一部に過形成性の成分を認めたことから、発生母地として過形成性ポリープの可能性が考えられた。過形成性ポリープの癌化は1.5-5%といわれているが、そのほとんどは高分化腺癌であり、未分化腺癌が発生した報告は少ない。本症例はまれな過形成性ポリープからの発癌が隆起型の印環細胞癌となったと考えられる。経過とともに文献的な考察を加え報告する。