従来報告されてきたH.pyroli陰性胃癌には,胃粘膜萎縮が高度に進み,もはやH.pyloriが生息できない胃内環境(H.pylori既感染)に発生したものも含まれている可能性がある.胃粘膜萎縮のほとんどない厳密な意味でのH.pylori陰性胃癌は,全胃癌の約1-2%程度と報告されており極めて少ない.今回われわれは,H.pylori陰性の胃に発生した非噴門部癌2例に対しESDを施行した稀な症例を経験したため報告する.症例1:50歳男性.2005年8月に当院での人間ドックの内視鏡検査にて,胃角部大弯前壁寄りに約5mm大の褪色病変を認めた.背景粘膜は萎縮がなくRAC(regular arrangement of collecting venules) sign陽性であった.PG(pepsinogen)/比は7.6で,H.pylori IgG,尿素呼気試験共に陰性であり,H.pylori陰性と考えられた.同年11月にESDを施行したところ0-c, M, sig, 5×5mm,ly0,v0, Ul(-)と診断された.症例2:44歳男性.健診の胃造影検査にて胃体部大弯に多発する隆起性病変を指摘され,2006年1月に精査目的に内視鏡検査を施行したところ,胃体下部小弯に約5mm大の小隆起性病変を認めた.背景粘膜は萎縮がなくRAC sign陽性で複数の胃底腺ポリープの並存を認めた.PG/比は10.5で,H.pylori IgG,尿素呼気試験は共に陰性でありH.pylori陰性と考えられた.同年2月にESDを施行したところ0-c, M, sig, 6×5mm,ly0,v0,Ul(-)と診断された.米国での噴門部癌はH.pylori感染と逆相関するとの報告はあるものの,日本でのH.pylori陰性胃癌の特徴については,一定の見解は得られていない.われわれの経験した症例は2例とも,比較的若年男性の非噴門部未分化癌であり,今後の症例蓄積が望まれる.