日本消化器内視鏡学会甲信越支部

6. ヘパリン置換療法下にESDを施行した早期胃癌の1例

新潟大学医歯学総合病院 第三内科
廣野 玄、東海林俊之、竹内 学、佐藤祐一、大嶋智子、河内裕介、塩路和彦、横山純二、佐々木俊哉、小林正明、松田康伸、杉村一仁、青柳 豊
同 光学医療診療部
成澤林太郎
同 第二外科
曽川正和、林 純

 ESDの出現により任意の大きさで切除が可能となった反面、後出血等に対するリスクマネージメントが重要となってきている。一方、薬剤溶出性ステントの使用や人工弁置換術により、抗凝固・抗血小板薬の使用中止が困難な患者も増加している。今回、人工弁置換術後の早期胃癌患者に対し、ヘパリン置換療法下にESDを施行し、後出血のコントロールに難渋した症例を経験し報告する。症例は70歳代女性。平成13年、大動脈弁狭窄にて人工弁置換術を施行。平成17年10月、近医の上部消化管内視鏡検査(EGD)にて体中部後壁に径30mmの早期胃癌0IIaを認め、当院へESD目的に紹介された。ASGEガイドラインにおける血栓塞栓症の高危険疾患であったため、ヘパリン置換療法(15,000単位/日)を行い、術前7時間前にヘパリンを中止してESDを施行した。術中の出血コントロールに問題はなく、切除面の血管を十分処理して終了した。血液検査上、貧血の進行なく、ESD終了24時間後よりヘパリンを再開し、その後Hbの有意な低下はなく、APTTも適正値であった。しかし、術後7日目のEGDで潰瘍底に大きな凝血塊を認め、14日目も同様で潰瘍の改善が見られなかったためヘパリン置換療法を中止した。中止後6日目には凝血塊の付着はなく、以後潰瘍はほぼ完全に肉芽組織に覆われた。ヘパリン置換療法はESD後の出血を助長させ、潰瘍治癒を遷延させる可能性が示唆された。血栓塞栓症高リスク患者に対するESD後のヘパリン再開時期は今後の重要な課題となると思われた。