症例は56歳女性.主訴は嚥下障害.既往歴として,平成8年乳癌に対し乳房切除術を受け,平成13年まで術後化学療法を受けている.現病歴として,平成17年3月頃より嚥下困難を認め,近医にて上部消化管内視鏡を受けたところ,食道狭窄を認めたため,精査目的に当院に紹介となった.理学的所見,血液検査所見に特記すべき異常は認めなかった.内視鏡では,切歯より32cmの部位に全周性狭窄を認めたが,粘膜面は異常なく,ヨード不染も認めず,この時にはスコープは通過可能であった.生検組織所見は異常なかった.胸部CTを施行したところ,全周性の壁の肥厚を認めた.信州大学に超音波内視鏡下吸引生検を依頼したが,組織採取は困難であった.このため,PETを施行したところ,縦隔及び左鎖骨上窩に集積を認めた.左鎖骨上窩リンパ節に対し,超音波ガイド下に生検を施行したところ,以前の乳癌と同様の組織を認めたため,乳癌再発食道転移と診断した.狭窄は次第に増悪し,食事摂取も困難になった.狭窄は固く,バルーンでは拡張が困難なため,セレステンチューブにて拡張を行った.その後,外科にて化学療法を開始したところ,嚥下困難は改善した.化学療法は継続中ではあったが,平成18年3月には再び嚥下困難を認めた.内視鏡及び食道透視を施行したところ,下部食道の以前とは異なる部位に狭窄を認めたため,再度内視鏡的に拡張した. 乳癌の食道転移は比較的稀であり,また本例は化学療法により狭窄部位が変化し,興味深い症例と思われ,報告した.