日本消化器内視鏡学会甲信越支部

2.粘膜下腫瘍様の形態を呈した食道癌の1例

富士吉田市立病院 外科
須藤雄仁、井澤伸一郎、小林純哉、本田勇二、石川 仁、江口英雄
山梨大学医学部 第2病理
村田晋一

 症例は51歳、女性。食欲不振と胸焼けを自覚していたが、タール便の出現を機に当院に受診した。血液検査では貧血と低蛋白血症を認め、腫瘍マーカーはSCCのみ1.7ng/mlと軽度上昇していた。内視鏡では胸部食道に半周弱を占め中心陥凹を有する大きな隆起性病変があり、あたかも粘膜下腫瘍を疑う形態であった。ルゴール染色では病変から口側に連続する広範な不染帯を認め、生検では扁平上皮癌であった。術前検査で明らかなリンパ節転移・遠隔転移はなく、胸部食道全摘術を行った。病理診断は中分化扁平上皮癌、pT3、pN0、stageで、広範な上皮内進展を伴っていた。腫瘍が、潰瘍形成部から上皮内に広範に進展する成分と、massを形成し深部に進展する成分の両者を有していたことが特異な形態を呈した原因と推察された。