日本消化器内視鏡学会甲信越支部

065 深部静脈血栓症を合併した潰瘍性大腸炎の1例

新潟県立新発田病院 内科 
夏井 正明、玄田 拓哉、姉崎 一弥、本間 照、関根 輝夫

  潰瘍性大腸炎(以下、UC)における腸管外合併症としての動静脈血栓症は1936年のBargenらの報告以来認識はされているが、実際の臨床の場で遭遇することはまれである。今回われわれは下大静脈下端〜左膝窩静脈にかけて血栓形成を認めたUCの1例を経験したので報告する。症例は75歳、男性。57歳時に脳梗塞、70歳時に胃癌で胃全摘術の既往あり。平成9年のUC発症後新潟大学第3内科で加療され、平成13年2月当科に転院。平成15年12月に再燃を来たし一時的にprednisoloneを20mg/dayに増量した以外はprednisolone 5mg/day、salazosulfapyridine 3g/dayで経過良好であった。しかし、平成16年3月より自己判断で近医に転院。12月に転倒して以来食欲が低下し、臥床しがちとなった。その後左下肢の腫脹が出現し、平成17年2月16日当科を受診、入院となる。なおこの間に腹部症状は認めなかった。入院時現症では顔面の軽度浮腫と左下肢の著明な腫脹を認めた。検査成績ではWBC 8200x103/μl, Ht 35.8%, PLT 24.1x104/μl, TP 4.5g/dl, Alb 2.3g/dl, CRP 1.8mg/dl, APTT 43.9sec, PTINR 1.4, Fbg 344.0 mg/dl, FDP 5.0μg/ml, D-Dimer 1.9μg/ml, AT-III 59%, protein C activity 40%, protein S activity 60%と炎症反応陽性、低蛋白血症、凝固異常を認めた。腹部〜下肢CTでは下大静脈下端〜左膝窩静脈にかけて血栓が存在した。肺血流シンチグラムでは肺塞栓症を思わせる集積低下域を認めなかった。CFでは直腸〜盲腸まで偽ポリープと発赤が散見されたが、おおむね血管透見性は保たれていた。以上より全大腸型非活動期UCに合併した深部静脈血栓症と診断し、warfarinによる抗凝固療法と弾性ストッキング装着を開始した。これらの加療は有効で3月17日のCTでは下大静脈下端の血栓は消失し、左腸骨静脈〜膝窩静脈の血栓は残存するが明らかに縮小した。また左下肢の腫脹も軽減し3月20日退院した。