日本消化器内視鏡学会甲信越支部

064 回盲部放線菌症の一例

諏訪赤十字病院 消化器科
進士 明宏、武川 建二、沖山 洋、沖山 葉子、原 浩樹、山村 伸吉、小口 寿夫
諏訪赤十字病院 外科
矢澤 和虎
諏訪赤十字病院 病理部
中村 智次

 症例は56歳男性。主訴は右下腹部腫瘤、同部痛、体重減少。2005年3月に右下腹部痛、および同部の腫瘤を触知した。3日程で腹痛は一旦自然軽快したが、2週間後に再度腹痛が出現し、食欲不振と1kg/月程度の体重減少も見られた。虫垂炎の疑いにて当院に紹介となった。魚骨を飲みこむなどの既往はなかった。理学的には、右下腹部に硬い類球形の腫瘤を触知したが、腹膜刺激症状はみられなかった。血液検査にて炎症所見を認め、各種腫瘍マーカーは正常であった。腹部CT検査では回盲部に石灰化を伴う腫瘤を認めた。下部消化管内視鏡検査では、やや腫大した回盲弁、回盲部の発赤および圧排所見を認め、生検採取時、白色の膿汁を認めた。注腸検査では内部に石灰化を伴う径5cm大の粘膜下腫瘤として認識され、虫垂や終末回腸は描出されなかった。Gaシンチでも集積は同部に限局していた。便・生検組織培養では緑膿菌が検出されたが、病理学的には炎症のみで疾患特異的な所見は得られなかった。保存的加療で腹痛は消失したが、腫瘤はほぼ不変で膿瘍を伴った悪性腫瘍の可能性も否定できないことから、5月2日回盲部切除術を施行した。盲腸・虫垂は一塊となって腫大し、内腔に結石、膿瘍を伴い、一部に潰瘍形成がみられた。腫瘍成分はなく、膿瘍中から放線菌が検出され、回盲部の放線菌症と診断した。消化管放線菌症はまれではあるが、忘れてはならない疾患であり、診断の反省も含めて発表する。