日本消化器内視鏡学会甲信越支部

053 胃全摘術後9年目に発見治療された挙上空腸癌の1例

佐久総合病院 外科
中村 二郎、植松 大、石川 健、関根 徹、大井 悦弥
佐久総合病院 胃腸科
堀田 欣一、友利 彰寿、宮田 佳典、小山 恒男

 【はじめに】胃全摘術後の挙上空腸に発生した原発性空腸癌を経験したので報告する.【症例】患者:78歳、女性.主訴:左悸肋部痛.既往歴:58歳時 胆石症で胆嚢摘出術、69歳時 胃癌で胃全摘術施行.現病歴:2005年3月頃より食後の左悸肋部痛が出現した.症状の改善がなく5月に近医で内視鏡検査を受けた.挙上空腸に腫瘤性病変を指摘され、精査加療目的で当院紹介となった.内視鏡所見:食道空腸吻合部より5cm肛門側の挙上空腸に1/3周性の発赤陥凹性病変を認めた.中心部の陥凹は深くmass effectも認められmp以深の進行癌と考えられたが、周囲に0-IIa病変の進展を認めた.生検は高分化腺癌であった.消化管造影:食道空腸吻合部は縦隔内に存在し、横隔膜レベルの挙上空腸に側面変形を伴う隆起性病変が認められた.CT/US:SMA左側に20mm大の腫瘤を認めリンパ節転移あるいは左副腎腫瘤と考えられた.その他明らかなリンパ節転移、遠隔転移の所見は認めなかった.以上より胃全摘術後の挙上空腸に発生した異時性重複小腸癌と診断し、2005年6月15日開腹による挙上空腸部分切除及びSMA根部左側の腫瘤摘出術を施行した.病理組織検査:挙上空腸の高分化型腺癌、type0-IIa+IIc,ss,30×20mm,1/2周性、ly1,v1,no.SMA根部の腫瘤は副腎の腺腫あるいは過形成であった.【考察】挙上空腸に発生した空腸癌の報告は、2000年以降の国内の文献検索では原著2編、抄録4編と極めて少ない.一般的に原発性小腸癌はTreiz靱帯及びBauhin弁より50cm以内に発生する頻度が高いと言われており、今回の発生部位は小腸癌の好発部位と一致する.自験例は進行癌の周囲に0-IIa病変を認め、表面型癌から進展したde novo癌の可能性が高いと考えられた.また通常術後の内視鏡検査では、吻合部狭窄や逆流性食道炎の有無及び異時性重複癌の観点から食道癌の有無をチェックするが、空腸癌の発生も考え吻合部より20cm-30cmの挙上空腸も注意深く観察する必要があると考えらえた.【結語】1)稀な胃全摘術後の挙上空腸癌の1例を経験した.2)de novo発生した小腸癌と考えられた.3)胃全摘術後の内視鏡検査は挙上空腸の観察も注意深く行う必要があると考えられた.