日本消化器内視鏡学会甲信越支部

052 幽門化生粘膜の過形成性ポリープを伴った早期胆嚢癌の一例

長野中央病院 消化器内科
小島 英吾、太島 丈洋、松村 真生子、大石 美行
長野中央病院 病理科
束原 進

 胆嚢癌の発生において,胆嚢固有上皮の化生性変化が重要視されている.今回われわれは,幽門腺化生粘膜の過形成性ポリープを伴いその表層を癌が覆うように発育している興味ある症例を経験した.胆嚢癌の発生を考える上でも貴重な症例と考え報告する.症例は73歳,女性.2004年8月に胆嚢腫瘤の精査目的にて入院となった.腹部超音波検査にて多発する扁平隆起病変,腹部CTでは造影効果を持つ多発性腫瘤として描出された.ERCP所見は胆嚢肝床側に約10mm大の不整な隆起性病変を認め,胆嚢管および総胆管には異常所見はなく,形態学的な膵・胆管合流異常症もなかった.EUSでは肝床側に約10mmの丈を持つ表面不整な低エコー扁平隆起性病変を認め,その病変に連続して不整な粘膜の肥厚が拡がっており,所々で小結節状に隆起していた.外側高エコー層は全体に保たれ,最も隆起の目立つ部でも不整像は見られなかった.以上の所見より,深達度が漿膜下層以浅の胆嚢癌と術前診断を行い,同年10月に肝床合併切除術を施行した.切除標本の肉眼像は,体部肝床側を中心に頚部,底部に広がる扁平隆起とその周囲に顆粒状粘膜が見られた.隆起は分様状で表面は顆粒状であった.隆起に隣接して約5mm大の褪色調の亜有形型ポリープを認めた.病理組織所見は,扁平隆起部および周囲の顆粒状粘膜は配列不整の核を有し,乳頭状発育を示す高度異型上皮であり,粘膜内癌と診断された.さらに周辺のほぼ平坦な部分も異型上皮が境界不明瞭にひろがっていた.褪色調のポリープの中心部は異型のない粘液腺の密な増生からなっており,過形成性ポリープと考えられた.また,その表面は腺癌に覆われていた.粘液染色では,癌の周囲粘膜ではMUC6染色に陽性像を示す細胞が散在し,MUC2, MUC5AC, CD10染色はいずれも陰性であったため幽門腺化生粘膜と考えた.過形成性ポリープでも,構成細胞の粘液はMUC6が一様に染まったため,幽門腺化生の過形成性ポリープと診断した.胆嚢癌と過形成性ポリープとが興味深い形態で併存している症例であった.